公益社団法人
東京都獣医師会
Tokyo Veterinary Medical Association
愛玩動物看護師法施行から 2 年。現場に起きた変化とは |
【目次】
・巻頭言(1)大学病院紹介 第 10 回 「人と動物の架け橋となる人材の育成を目指して」
・巻頭言(2)連載オピニオンリレー 第 5 回 「私のバケットリスト」
・寄稿原稿 第 39 回世界獣医師大会(WVAC2024)参加報告
・特集 愛玩動物看護師法施行から 2 年。現場に起きた変化とは
巻頭言(1) 大学病院紹介 第 10 回 「人と動物の架け橋となる人材の育成を目指して」 |
鳥取大学 農学部付属 動物医療センター
センター長 竹内 崇
鳥取大学 農学部附属 動物医療センターは、獣医学教育、研究および診療を実践する山陰地区で唯一の大学附属施設として中核病院の役割を担っています。かけがえのない動物の命を救うため、患者さんと飼い主様の架け橋となりつつ、二次診療施設として貢献することを理念としています。
大学病院にはさまざまな役割がありますが、第一には地域の中核病院としての役割であり、高度医療を提供すべく各種医療機器を整備してきました。鳥取県内は無論ですが、近隣の他県からも片道 2 時間以上かけて多くの患者さんが紹介来院されます。遠方から来院いただく患者さんと飼い主様には通院にかかる負担もありますが、安心して受診いただけるよう、また紹介いただいた獣医師の先生方から信頼される医療を提供できることを念頭に、スタッフ一同が真摯に診療に向き合っております。
第二に、教育施設としての役割ですが、臨床実習を通じて単に専門知識の詰め込みではなく、患者さんと飼い主様にとって最良の治療選択は何かということを学生自身も自問自答することで、患者さんに寄り添った医療を提供できる"人と動物の架け橋となる人材 "の育成を目指しております。大動物診療では、地域の農業共済組合の先生方ならびに開業獣医師の先生方と連携し、活発に往診も行っています。大動物診療に携わる先生方のご理解とご協力が得られることで、自然豊かな地域ならではのメリットを獣医学教育にも反映させていただけることは大変ありがたいと感じております。
診療科は、内科、外科、腫瘍科、神経科、眼科、循環器科、皮膚科、画像診断科、検査科、産科、産業動物科を設置しています。特徴としては、山陰地区では数少ない眼科の診療科を設置しているため、多くの眼科症例を受入れており、眼科手術件数も年々増えています。白内障や緑内障、その他、様々な眼科疾患を正確に診断・治療するため、各種眼科検査機器や眼科手術顕微鏡など多くの機器を整備し、適切な治療を提供できる施設となっております。また、高齢動物の増加に伴い腫瘍疾患の割合も増えていますが、外科手術が適応でない疾患や手術後の継続治療として光線力学療法(フォトダイナミックセラピー:PDT)を導入しています。PDT は多くの症例で麻酔が不要であることから、動物にも優しい治療法の一つとなっています。さらに光感受性物質の改良など、PDTの治療効果を高める研究を推進しています。
今後も、診療活動を通じて、人と動物の架け橋となり得る人材の育成に務めてまいります。
鳥取大学 農学部附属 動物医療センターは、開業獣医師の先生方からの依頼を受けて診療を行う二次診療施設です。基本的に紹介症例のみを受け付けておりますので、飼い主様はかかりつけ医を受診していただき、かかりつけ医からご紹介いただきますようお願いいたします。診療は予約制のため、ファックスまたはメールにてかかりつけ医から紹介状を送付いただくことで受け付けております。また、当院は夜間救急体制ではありませんので、夜間はかかりつけ医を受診していただけますと幸いです。
写真 1 附属動物医療センター外観
写真 2 学生実習風景 |
写真 4 眼科手術顕微鏡システム |
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写真 3 膀胱移行上皮癌に対するレーザー治療 |
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巻頭言(2)オピニオンリレー |
オピニオンリレー 第 5 回
ひろ動物病院
安部浩之
最新情報から身上まで様々な話題や意見をつないでいくオピニオンリレー。 第 5 回では、安部浩之先生が "やりたいこと" についてご寄稿いただきました。 |
私のバケットリストについてお話したいと思います。バケットリストとは、人生でやりたいことや達成したい目標をリストアップしたもので、死ぬまでにやりたいこと、とも言われています。
自分も昨年で 60 歳となり、引退も考える年齢となりましたので、自分の体が動くうちにやりたいことをやっていこうと考えており、皆さまにその内容をお伝えしようと思います。
1 スペインに行く
コロナ前はセミナーや学会で、ラスベガスだのオーストラリアだのハワイだのに散々行っていたのですが、悲しいことに欧州には一度も行ったことがありません。欧州の世界遺産、特にスペイン・バルセロナにあるサグラダファミリア教会に昔から興味があり、今のうちにぜひ行ってみたいと思っております。その際には、サッカー FC バルセロナのカンプノウスタジアムを訪れるのはもちろん、本場のパエリアも食してみたいと思います。
2 サーフィンでチューブライディングを成功させる
何十年もサーフィンをやってきましたが、センスがないのか一度もチューブライディングに成功したことがありません。チューブライディングとは大きな波がつくる筒の中をサーフィンでくぐり抜けることであり、高度なテクニックが求められる技です。自然の波でこれを成功させることはほとんど不可能です。なぜなら、チューブを巻く波はとても大きくてパワーもあり、私のようなシニアの力では到底太刀打ちできないからです。しかし、好都合なことに、最近ではウェーブプールなるものが日本各地にできており、機械が同じ波を何本も作り出してくれます。昨年、テレビの企画でサーフィンど素人であるロッチ中岡氏がチューブライディングに挑戦し、あと少しで成功しそうになったのをみて、これはいけると思いバケットリストの一つに加えました。
3 チワワを飼う
2024 年 2 月に達成しました。元々 18 歳齢の老犬ダックスのタッキーくんと住んでいたのですが、前から保護犬のチワワを飼いたいと思っており、施設から 4 歳齢で雌のモモちゃんを迎えました。当初は気難しいタッキーくんと一緒に暮らせるのだろうかと心配していたんですが、モモちゃんは常にタッキーくんに寄り添って面倒を見てくれており、引き取って大正解でした。目下の課題は、ブリーダーの下で、外に出たことがないモモちゃんに散歩を教えることです。これはいまだに達成できずにおります。
4 ゴルフのスコアで 90 を切る
地元の獣医師会の先生たちとコースを回るようになって 10 年以上経つと思います。最初のころのスコアは 130 程度と、カートに乗る暇がないくらい叩きまくっていたのですが、レッスンを受けると同時に進化した道具の助けもあって、やっとコンスタントに 100 が切れるようになりました。ところが、ここからなかなか上達しません。センスがないので仕方ありませんが、今年中には 80 台が出るように、休みのたびに練習場に通っております。
5 英語でボランティア
私の趣味の一つに英会話があります。すでに 20 年以上レッスンを受け続けていて、短期留学をしていたこともあります。ただし、語学でもセンスがないのでいまだに中級レベルから脱出できません。 2021 年の東京オリンピックではガイドボランティアとして、海外から来た観客を案内するため 何度もオリンピックのボランティアレクチャーを受けてその日に備えておりましたが、結局のところ無観客での開催が決まり、ガイドの仕事がなくなって意気消沈しました。ただし、今後も東京での大きなイベントのときに、何らかの形でボランティアとして参加したいと思います。
6 2028 年ロサンゼルスオリンピックを観戦しに行く
今年はパリで、その次はロスでのオリンピックがあります。行き慣れているアメリカでの開催はぜひ、観客として日本チームを応援に行きたいですし、可能であればドジャースの大谷選手の応援もできれば最高です。
60 歳を過ぎてから、医師会の先生たちとはもっぱら「仕事辞めたら何する?」の話題を話すことが多くなりました。みなさんは引退したら何をして残りの人生を楽しみますか?
●ハワイ州オワフ島アラモアナ・ボウルでのサーフィン風景。
寄稿原稿 アフリカの公衆衛生獣医師事情に触れる 第 39 回世界獣医師大会(WVAC 2024)参加報告 |
このたび、2024 年 4 月 16 〜 19 日に南アフリカ共和国のケープタウンで開催された第 39 回世界獣医師大会(39 th WorldVeterinary Association Congress : WVAC 2024)に参加してきました。私は公衆衛生獣医師として、東京都内で日々発生している食中毒事件に関する検査と調査研究で仕事をしています。今回、日常業務の成果をとりまとめた演題「Epidemiologicalstudy of Campylobacter jejuni isolated from gastroenteritispatients in Tokyo, JAPAN」を、全国公衆衛生獣医師協議会からの渡航費用助成を賜り、英語で口頭発表しました。本大会の参加を通じて非常に多くのことを学び、貴重な経験をすることができたと感じています。今回、東獣ジャーナル 7 月号誌面にて報告する機会を頂戴しましたので、現地で撮影した写真も含めてご紹介いたします。
英語で口頭発表は人生初! しかも 20 分間!
今回、ポスター発表ではなく、口頭発表を選択した理由は二つあります。一つは、ポスターを印刷して日本から手荷物として持参することが面倒だったから。もう一つは、この貴重な機会を通じて、自分自身の成長と未知の経験を得たいと思ったからです。
口頭発表に向けた準備は、スライドの英語翻訳、英語版のスライドに合わせた読み原稿の作成(by Google 翻訳 &Microsoft 365 copilot)、スマホの読み上げ機能(自動音声)を用いた読み原稿のリスニング、ボイスレコーダーアプリを用いて録音音声の発音チェックなどをしました。そして、日本特有の食習慣(鶏肉の生食)を原因とするカンピロバクター食中毒について、東京都の公衆衛生獣医師としてどのように対応すべきか?という自分の思いをスライド内容に込めました。
発表本番では、英語の読み原稿を印刷した紙を片手に、それを読み上げながらプレゼンするということで精一杯でしたが、頑張って英語のスライドを充実させた効果か、発表後に質問を二つ頂きました。一つ目は日本における食肉の生食リスクに関する教育の現状についてでした。二つ目は、カンピロバクター以外の微生物リスク、例えば大腸菌による食中毒は発生しているかという質問でした。
二点とも日本でもよく質問される内容だったのですが、英語による質疑応答では、正直、自分が言いたかったことの半分も伝えられませんでした。しかし、私のジャパニーズ・イングリッシュでも、一生懸命説明すれば何とか伝わるものですね。言葉以外の態度や印象(勢い?)で伝わった部分も大きかったように思います。
大会 4 日間で印象に残ったこと
国際学会に参加すること自体が初めてだったこともあり、見聞きすること全てが新鮮でした。参加初日は、全く日本語が聞こえない環境と、ネイティブスピーカーである各国獣医師たちによるプレゼンの英会話スピードに圧倒され、3 日目予定されていた自分の口頭発表への不安が募るばかりでした。しかし、2 日目以降は抄録を事前に読んでから聴講するなどで対策をし、少しずつ英語にも耳が慣れてきて、演題によっては半分以上の内容が理解できるようになってきました。休憩時間は会場フロアの片隅で、一人でこっそり外の景色に向かって英語発表の練習をしながら過ごしていました。
●口頭発表の様子(左奥が筆者、聴衆はアフリカ各国の公衆衛生獣医師ら)。 |
●口頭発表スライドの表紙。 |
●日本のカンピロバクター食中毒に関する概要説明。 |
また、今回の開催地であるアフリカ大陸ならではのテーマとして、野生動物関係の演題発表が印象に残りました。絶滅危惧種の個体数維持、密猟等による負傷動物の救護、サファリに生息する動物たちの感染症対策など、日本では見慣れないテーマのプレゼンテーションは、まさにアフリカ大陸らしい研究内容であり、非常に興味深く感じました。第一線で活躍している獣医師らのプレゼンを生で聴講できたのはとても贅沢だったと思います。
大会 4 日間を通じて、会場や懇親会の場で南アフリカ共和国、ザンビア共和国、ジンバブエ共和国、タンザニア連合共和国などの獣医師と話す機会がありました。私は日本の公衆衛生獣医師で、食品衛生や感染症対策に関する仕事をしていると自己紹介しました。すると、「アフリカでは公衆衛生獣医師が足りていない。各国の公衆衛生の向上には欠かせない人材だ!」という言葉を数多くいただきました。国によって公衆衛生に対する優先順位は異なるかもしれませんが、アフリカ各国では公衆衛生獣医師の需要と、その仕事に対する高い期待を感じました。
最後に
すでに日本獣医師会のプレスリリースでも案内されているとおり、日本獣医師会の藏内会長が、2026 年から世界獣医師会の会長へ就任することが決定しました。来年 2025 年 7 月はアメリカのワシントン、そして再来年の 2026 年は東京で世界獣医師大会が開催されます。本大会では、獣医師が従事する全ての分野に関するテーマのシンポジウムや演題発表がプログラムされますので、東京都獣医師会の先生方もぜひ貴重な機会を逃すことなく、積極的に参加することによって日本の獣医師の実力を存分に披露していただけたらと思います。
●ランチタイムの様子。会場に併設された高級ホテル「ザ ウェスティン ケープタウン」のケータリングだったので、毎日とてもおいしかったです。 |
● WVAC2024 会場受付にて(左が筆者、右は同行した福井県職員の永田先生)。 |
特集 愛玩動物看護師法施行から 2 年 現場に起きた変化とは |
令和 4 年 5 月に愛玩動物看護師法が施行されてから約 2 年が経過した。原稿執筆時点で、国家試験はこれまでに 2 回実施され、愛玩動物看護師の名簿登録者数は 21,561 名(一般財団法人動物看護師認定統一機構HPより)となった。小動物臨床に携わる獣医師の届出数が 16,541 名(農林水産省HP「獣医師の届出状況」より)であることを考えると、たった 2 年で獣医師よりも多くの愛玩動物看護師が登録されたことになる。
愛玩動物看護師法(以下、動看法)は、「愛玩動物看護師の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって愛玩動物に関する獣医療の普及及び向上並びに愛玩動物の適正な飼養に寄与することを目的」として施行された。愛玩動物看護師(以下、看護師)が誕生することにより、獣医師と共に獣医療の進歩に寄与していくことが期待されている。
実際、施行後は動物病院における看護師の役割はより深さを増し、獣医師の負担が軽減されたという声も 多い。また、施行前には慣用的に「看護師」として勤務していた人にとって、ライセンスを保有したことで自身 が行える業務範囲が広がり、モチベーションの向上にも寄与していることだろう。
他方、動看法の施行から間もないがゆえに、業務範囲が明瞭でない部分も多く、各獣医師や動物病院にその解釈を委ねられている点も否めない。
そこで、TOJUジャーナル編集部では、東京都獣医師会に所属する動物病院にアンケートを実施し、動物病院で実際に起きた変化、担う業務、待遇等についての実態調査を行った。
<調査概要> アンケート期間:2024 年 5 月 17 〜 27 日 方法:webアンケート 対象者:東京都獣医師会A会員(開業医) 有効回答数:52 名(病院責任者による回答のみ抽出) |
本調査の主要な目的の一つに、院長自身が看護師の職域をどの程度理解しているか、またそれが動看法の趣旨に合っているかどうかがあった。職域については、「正確に理解している」との回答が 57.7%にとどまる結果となった。次いで「概要は理解しているが、詳細まではわからない」が 32.7%と続いた。
この背景には、解釈の度合いに幅がある点が大きいだろう。農林水産省の動看法Q&Aによるとこのように記載されている。
問2-1 愛玩動物看護師は、どのような業務を行いますか?
愛玩動物看護師の業務は(中略)、診療の補助、愛玩動物の世話その他の愛玩動物の看護、愛玩動物を飼養する者その他の者に対する愛護及び適正な飼養に係る助言等を業務とすることとなります。
実際に「診療の補助」は具体的にどのような行為を指すか、と続くQ&Aでは「診療の一環として行われる衛生上の危害を生じるおそれが少ないと認められる行為であって、獣医師の指示の下に行われるもの」とされている。参考までに、具体例として記載されているものを全て紹介する。
<実施して良いもの> ●輸液剤の注射 ●採血 ●マイクロチップの装着 ●カテーテル留置
<実施できないもの> ●診断 ●X線撮影 ●ワクチン等の身体への影響が大きい医薬品の投与 ●調剤 |
診療業務範囲について具体的に言及されている箇所 はQ&A全文の中で上記に限られており、これ以上の具体例は示されていない。これらは動物病院で行われる膨大な業務のごく一部であり、「では気管挿管はOKか」や「歯科スケーリングはOKか」などクリアにしておきたい点も多くの残る。
一方で、だからこそ全ての業務内容をそれぞれ具体的に示すことが難しいとも言えるだろう。したがって「危害を生じるおそれが少ないと認められる行為」は動物病院の責任者自身が職業倫理と社会通念をもって、独自に判断していかざるをえないのが現状である。
では、動物病院では実際どのように運用されているだろうか。複数の診療場面に分けて調査を行った。
診療関連業務
診察室内で行われる診療関連業務について、具体例を示しながら所属する病院の看護師が担っている業務を調査したところ、以下のような結果が得られた。
日常的な業務として多い血液検査関連は、動看法でもわかりやすく明示されており、7割以上の病院が実施 していると回答した。検査所見のカルテ記入および報告(38.5%)、顕微鏡を用いた各種検査(46.2%)も比較的 高く、看護師の実施する検査が、獣医師の診断の補助として活躍している実態が見えてくる。
一方で、農林水産省が明確に「実施不可」としているX線撮影について、13.5%の病院が「実施している」と 回答した。X線撮影は一人で実施することが難しい業務であり、これまでも慣習的に獣医師以外で撮影するようなケースも多かったはずだ。勤務する獣医師数も影響している可能性はあり、院内のヒューマンリソース上やむを得ず実施していることがうかがえる。
処置関連業務
次に、処置に関連する業務について調査したところ、以下のような結果が得られた。
注射や投薬、点滴などは多くの動物病院で看護師に担わせているとの回答があった。全体的に、比較的侵 襲性の低い処置の割合が高い傾向にある。また、尿道カテーテルを用いての採尿やマイクロチップの挿入は動 看法上で「実施できるもの」として明示されているものの、その割合は 15%未満であった。血液検査や注射に比べて、実施の頻度が低いという点もこの傾向の要因かもしれない。
一方、わずかではあるがワクチン接種(本来は実施で きない)を行っている病院も見られた。また、心肺蘇生については動看法Q&Aにおいても「獣医師による個別具体的な指示」を基本としているものの、一部は認められているものもあり、明確に業務範囲であるとは言い難く判断が分かれるところだろう。
今回の動看法の施行により、看護師が上記まで述べた業務の一部を法的に認められ行うことができるようになったことで、診療補助としてこれまで以上の効率化は期待できるだろう。しかしながら、前述の結果を見てもわかる通り、動看法の理解の浸透まではまだ時間がかかりそうだ。
本稿ではスペースの関係上省略したが、調剤関連の業務実態の設問においても看護師が担っている動物病院が一定程度あることもわかってきた。しかし、法的に調剤行為は、獣医師または薬剤師が実施する必要がある。では調剤とは何か?というと、これもまた明確な 基準はない。少なくとも、薬剤を分割したり粉末化したりする行為は調剤に該当すると言えるだろう。したがって現在の法制度上では、看護師は薬の分割や粉末化はしてならない。しかしながら、みなさんの動物病院ではどうだろうか。とはいえ解決策はあり、近年では院内の調剤業務を受託してくれる事業者も活躍している。法務リスク等を考えると、こうしたアウトソーシングも一考の余地はありそうだ。
論点を戻すと、多忙を極める現場では看護師に任せる以外に選択肢がないのも事実であり、ジレンマもあるようだ。
同時に、多忙を極める臨床現場では、わかっていても時には看護師に依頼しないと業務が回らない場面にジレンマもあるだろう。
看護師が担う業務についての判断で悩む点についても自由回答を得た。
●実施可能な行為とそうでない行為を記した公的 なガイドラインが欲しい。法律ができ資格ができたが、雇用する獣医師側にはちゃんとした情報が伝えられていないと思う。
●できることとできないことの明確な掲示と、違反にあたる具体的な例などを知りたい。
●看護師による調剤が認められていないことは理解していますが、院内処方を行う上では避けられないのが現状です。
●人員バランスの結果、まだ獣医師の補佐にすぎない行為に限られ、もったいないと感じる。 |
観点を変え、資格手当についても調査を行ったところ、看護師が在籍している動物病院のうち、8 割以上が何らかの方法で資格手当を支給していることがわかった(n=42)。
また、手当として支給している動物病院の手当の支給額水準(月額換算)は、以下の通りであった(n=32)。
10,000-15,000 円が最も多く、次いで10,000 円未満との結果となった。20,000 円以上支給している病院も全体の 1/3 を占めていることもわかった。
看護師の雇用ニーズは前述の資格手当にも関連するかもしれない。「今後、積極的に看護師を雇用したいか」 との質問には 54.9%が「はい」と答えており、意外にも半数程度に留まる結果であった。
「いいえ」と回答した 13.7%に理由を質問したところ、以下のような回答があった。
●人件費を懸念している
●現状、有資格者と無資格者で仕事内容に差がない
●責任を取るのは院長であるため |
また、「看護師と看護師以外での技能・知識のレベルに違いがあると思うか?」との質問には、「特段違いを感じない」が6割を占め、看護師の資格制度のみならず、今後の学部教育や取得後の教育にも課題がありそうだ。
自由記入欄として動看法全般の意見を募った。
●せっかく国家資格化したのであれば、十二分に権 限を与えてモチベーションを持てるようにした方が良いのでは。
●人の医療に見習い、看護師の職域を広げることは必要だと思います。
●法律と臨床現場との温度差を感じる。今までグレーであった部分ができなくなり、苦労している病院も多い。臨床現場での実用性をもっと客観 的に評価して、看護師業務の拡大を望みたい。 ●これからの看護師は診断、処方、手術以外の業務について米国のように看護師の業務内容を成 熟させていくため単に獣医師のサポート役だけではなく、より細分化して内視鏡、画像診断、 麻酔、外科、外科手術サポート、救急、集中治療、臨床病理検査などを担っていくべき。看護師のみの研究会などがあっても良い。
●資格を持たないスタッフの今後の勤務や雇用のあり方など。 |
確かに、動看法の範囲は曖昧な点も多く、現場で混乱を起こしている点も否めない。施行から間もないため、関係省庁や団体としても実態にあった解釈のチューニングを検討しているところであろう。
しかし、施行前における状態を考えると、進歩してきているとも捉えられる。これまでは院内業務のほとんどを獣医師が行わざるを得ない法規制であった。それが、今回の動看法の施行により、看護師が診療業務の一部を行うことができるようになった。これは決して業務範囲が狭まったものではなく、「広がった」と解釈して良いだろう。今回の調査を通じて、業務範囲の明確化など現場との乖離は依然として解消していないことが明らかとなった。しかし、その資格の活用次第では動物病院での診療補助だけでなく、資格取得後の教育システムなどを充実させることで看護師個人としての職域も広がり、獣医療の発展に期待ができるのではないだろうか。
Special Contribution1
〜愛玩動物看護師に期待する動物病院の増加で活躍の場を広げるために実践的な教育を〜
ヤマザキ動物看護大学、ヤマザキ動物看護専門職短期大学、ヤマザキ動物専門学校では、いずれも愛玩動物看護師になることを第一の目標に掲げた志願者が増えています。「卒業時に国家試験を受験し資格を取得する」と学びの目的が明確になり、意欲的・積極的な姿勢が強まりました。カリキュラムも試験に必要な科目の到達目標が定まったことで、学内模擬試験など国家試 験対策に学生主体で取り組む場面が増え、教員が学習環境をサポートしています。
求人情報が集まるキャリア支援センターには「採血や投薬等の医療行為を任せられる責任感を持った愛玩動 物看護師を養成してほしい」という動物病院からの要望が数多く寄せられています。「実際には病院で経験を積んでから」「将来は病院運営も担える人材に」など意見は様々です。ペットホテルなど関連産業でも顧客の信用 が高まると注目しています。国家資格取得者におかれましては、その信頼を職場環境整備や処遇改善につなげ、活躍の場を広げていただきたいと思います。
とはいえ、愛玩動物看護師はまだ「生まれたて」の創成期にあります。「日本の動物看護教育の歴史は本学園の歴史」との思いから、関係者の要望を反映して教育内容を充実させるとともに、時代に沿った国家資格の見直しを働きかけてまいりたいと思います。
●理事長・学長自ら教壇に立ち、動物看護の歴史やアニマルアシステッドセラピーなどの講義を行っています。 |
●日本初の動物看護学部を有するヤマザキ動物看護大学。豊かな緑に囲まれた東京都八王子市の南大沢キャンパスです。 |
Special Contribution2
愛玩動物看護師法が成立して早 5 年目を迎えようとし ています。東京都獣医師会会員動物病院の皆様方には、特に動物看護総合実習でお力添えをいただき心より感謝申し上げます。
当校では国家資格になる前より動物看護師統一認定資格取得に向けて全校あげて支援して参りました。その実績を踏まえて国家試験となりました今も、より一層の教育と学生支援を推進しているなかで、学生達の勉学への意識はやはり高まっていることを感じています。教科書を片手に通学してくる学生の姿も多く見られ、一刻も無駄にしないで復習する姿勢に国家資格の大きさを感じています。
また、国家資格有資格者と無資格者がわかるように紹介している動物病院も増えてきていますので、学生自身もちゃんと資格を取得しないとならない、という意識が生まれているのだと思います。一方で愛玩動物看護師の業務を自分が本当にできるようになるのか不安になり教員に相談に来ることもあり、まずはしっかりと授業 を受け、実技練習を重ねる大事さを伝え励ますこともしばしばあります。
国家資格は国から預かった免許という位置づけですので免許取得がゴールではなく、取得後も磨き続け社会に貢献することが誇りであり、遣り甲斐となります。 一般財団法人動物看護師統一認定機構でも生涯教育講座を始めていますし、他にも学ぶ機会が豊富になっています。在学中から生涯にわたり学び続ける姿勢が大事であることも指導の一環と考え、また卒後教育でも支援して参れればと思っています。
●3 年制の愛玩動物看護学科では、養成所として国家資格の受験資格を取得することができる教育機関として実践的な実習を行います。 |
●学校法人シモゾノ学園国際動物専門学校は、愛玩動物看護学科を含む 4 つの学科を有する東京都の認可を受けた専門学校です。 |