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【TOJUジャーナル 2022 年 10 月号(605 号)】
 特集 「看護師国家資格化。現場はどう向き合うのか」

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【目次】

・巻頭言 大学病院紹介 第 5 回 「動物医療センターの現在とその未来。地域に根差す動物医療の役割を考える」

・特集 「看護師国家資格化。現場はどう向き合うのか」

・特集 1 「愛玩動物看護師国家資格とは?」

・特集 2 「教えて!田村先生! 愛玩動物看護師国家資格Q&A」

・特集 3 愛玩動物看護師国家資格化「当院はこうします」動物病院アンケート


 巻頭言 大学病院紹介

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大学病院紹介 第 5 回

 

動物医療センターの現在とその未来

地域に根差す動物医療の役割を考える

酪農学園大学附属動物医療センター

センター長 大田 寛

 

初めまして。酪農学園大学附属動物医療センターのセンター長を務めております伴侶動物内科学の大田と申します。私は 2020 年 10 月より同医療センターの副センター長を拝命し、2022 年 4 月より前任者である加藤敏英先生の任期を受け継ぐ形でセンター長に就任いたしました。私は伴侶動物部門の所属であるため、ここでは伴侶動物医療部門を中心に紹介いたします。この記事を読まれている東京都獣医師会の会員の先生方のなかには、本学のご出身の先生も少なからずおられると思いますが、先生方が卒業された当時と比べて現在の動物医療センタ−(旧動物病院)は大きく様変わりしたと思われます。私が本学に着任しました 2020 年頃を境にして、動物医療センターの伴侶動物医療部門を担う専任教員の半数近くが入れ替わったという状況にあります。したがいまして、メンバーも気持ちを新たに、診療活動の活性化に取り組んでおります。当動物医療センターの伴侶動物医療部門は、診療を担当する腫瘍科・軟部外科、神経科、整形外科、循環器科、内科、リハビリテーション科に加え、診療支援科である麻酔科、画像診断科から成り立っています。当動物医療センターでは他大学に先駆けて、欧米の大学病院のように麻酔科、画像診断科を立ち上げてきたことが大きな特徴であると言えます。

現在、酪農学園大学の獣医学群では、ヨーロッパ獣医学教育機関協会(EAEVE)の国際認証を目指して準備を進めております。EAEVEの国際認証については、国内の獣医大学では、北海道大学と帯広畜産大学、鹿児島大学と山口大学の 2 組、 4 校がすでに認証を取得しています。一方で、酪農学園大学のEAEVE認証取得の試みは、私立の獣医大学では初、単独の大学でも初、と初めて尽くしの試みとなります。EAEVEの国際認証においては、特に臨床教育の充実が求められるため、当動物医療センターではソフト面ならびにハード面の強化が必要となっています。ソフト面では、私共のような専任教員に加え、臨床実習において専任教員のサポートを担う嘱託助手という若手の教員の採用を進めているところです。また、診療活動の活性化に伴い病院獣医師(研修医)の採用も積極的に行っています。幸いなことに、今年度は病院獣医師の定員がほぼ埋まっている状態となりました。また、ハード面では、EAEVEで求められる診療区域と非診療区域の明確な区別のために、必要な改修工事も近日中に開始される予定です。

もう一点大きな課題として、当動物医療センターのみの課題ではありませんが、動物看護師の国家資格化に伴う業務内容や待遇の見直しの検討が必要となっています。また、第 1 回目の国家試験に向けて、当センターに所属する動物看護師たちにどのような補助ができるのかなども重要な検討課題です。

上記のように、解決しなくてはならない課題が山積みの状況ではありますが、地域の動物医療を支える二次診療施設としての役割を果たせるよう、専任教員をはじめスタッフ一同が協力しながら高度医療の安定的な提供を目指しております。

東京都獣医師会の会員の皆様には馴染みのない立地ではありますが、今後とも酪農学園大学附属動物医療センターへのご支援をお願いいたします。

 

酪農学園大学附属動物医療センターの紹介

Web site:https://amc.rakuno.ac.jp

酪農学園大学附属動物医療センターは、生産動物医療部門、伴侶動物医療部門、診療支援部門、動物看護部門から成り立っております。生産動物医療部門は、生産動物内科、生産動物外科、繁殖科、群管理科で構成されています。伴侶動物医療部門は、内科、整形外科、腫瘍科・軟部外科、循環器科、神経科、リハビリテーション科、代替獣医療科で成り立っています。診療支援部門は、麻酔科、集中治療科、画像診断科、臨床検査科、病理検査科、薬剤部、血液製剤部で構成され、生産と伴侶の両部門の診療を支えてくれています。当センターの特徴の1つとして、北海道という酪農の盛んな土地に立地していることから、生産動物医療部門の診療件数が伴侶動物医療部門と同様に多いことが挙げられます。また、専門分野が細かく分かれていることから、それぞれのスタッフがその専門分野の知識や技術を発揮して協力しあうことで、チーム医療を実践しています。診療支援部門が充実しており、薬剤師が常勤でいることも獣医師の大きな助けとなっています。 生産動物医療部門と伴侶動物医療部門の両輪が活発に活動していることが当センターの特徴であり、EAEVEの国際認証においても強みになると考えられます。

電話番号:011-386-1213(予約受付時間 平日 8:30 〜 16:30)

 

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酪農学園大学付属動物医療センター外観

           

伴侶動物医療部門 手術風景

    

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生産動物医療部門 牛の診察室

 

 

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 特集「看護師国家資格化。現場はどう向き合うのか」

令和元年に制定された愛玩動物看護師法により、新たな国家資格「愛玩動物看護師」が誕生しました。これから動物看護師は、愛玩動物看護師国家試験に合格し、登録を行うことで、愛玩動物看護師になることができます。愛玩動物看護師でない人は、愛玩動物看護師やこれと紛らわしい名称を名乗れなくなりました。

間もなく、愛玩動物看護師の国家試験がはじまります。

今回の特集では動物看護師の国家資格化による現場の獣医師たちの対応などについてとりあげます。


 ◆特集 1 「愛玩動物看護師国家資格とは?」  


愛玩動物看護師とは

愛玩動物看護師は、愛玩動物に関する獣医療の普及・向上、適正な飼養に寄与する以下の業務を行います。                                                

 

愛玩動物看護師の業務

1.愛玩動物の診療の補助

獣医師の指示の下に行う採血、投薬(経口など)、マイクロチップ挿入、カテーテルによる採尿など

※愛玩動物看護師は、獣医師の指示の下、愛玩動物に対する診療の一環として行われる衛生上の危害を生ずるおそれが少ないと認められる行為を行うことができる。この「診療の補助」を行うことができるのは、獣医師以外では愛玩動物看護師の有資格者のみ(業務独占)。

 

2.愛玩動物の世話 その他の看護

入院動物の世話、診断を伴わない検査など

 

3.愛玩動物の愛護・適正な飼養に係る助言その他の支援

●動物の日常の手入れに関する指導・助言:グルーミング、爪切り、歯磨き等

●人と動物の共生に必要な基本的なしつけ:適切な社会化を促すための教室の開催

●動物介在教育(AAE)への支援:小学校などを訪問し学習活動をサポート

●動物介在活動(AAA)への支援:高齢者施設等でのセラピー活動

●動物飼養困難者(高齢者など)への飼育支援:家庭訪問、電話などで飼育に関する助言

●災害発生時の被災動物適正飼養のための支援:地方自治体との連携協力

●動物のライフステージに合わせた栄養管理:ペットショップなどでの食事相談     など

 

受験資格の要件

愛玩動物看護師の受験資格は、愛玩動物看護師法の施行(令和 4 年 5 月)以降に愛玩動物看護師を養成する大学や指定を受けた養成所で学ぶことによって得ることができます。

また、経過措置として、条件を満たす既卒者・現任者などは、令和 9 年 4 月末までに講習会を受講し、予備試験に合格することによって受験資格を得ることができます。

 

試験スケジュールなど

●令和 4 年 5 月〜 11 月に講習会実施

●令和 4 年 11 月 6 日 予備試験

●令和 5 年 2 月 19 日「第 1 回愛玩動物看護師国家試験」

                                                  

詳細については以下のリンクをご参考にしてください。

Q&A

農林水産省HP

https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/doubutsu_kango/qanda.html

                                                  

環境省HP

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/kangoshi/qa.html

                                                  

問合せ先

農林水産省 消費・安全局畜水産安全管理課小動物獣医療班

TEL:03-3502-8111(代表)

https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/doubutsu_kango/index.html 

                                                  

環境省 自然環境局総務課動物愛護管理室

TEL:03-3581-3351(代表)

0120-323-750(令和 3 年度コールセンター)

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/kangoshi/index.html 

                                                  

《試験事務》

一般財団法人動物看護師統一認定機構

https://www.ccrvn.jp/index.html 

 

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◆特集 2:「教えて!田村先生! 愛玩動物看護師国家資格Q&A」


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2023 年 2 月に最初の国家試験が開催される「愛玩動物看護師国家資格」について、獣医師が疑問に思っているおよそ 15 の質問に、東京都獣医師会の顧問弁護士であるフラクタル法律事務所の田村勇人先生が答えてくださいました。ぜひご参考にしてください。

 

 

 

回答者:フラクタル法律事務所 田村 勇人(たむら はやと)先生

 

※なお、本回答は、現時点での法律やガイドラインをもとにしており、今後、農水省・環境省から明示されるガイドラインなどによって変更となる可能性があることをあらかじめご了承ください。

 

Q 1. 愛玩動物看護師国家資格をとると、動物看護師は何ができるようになるの?

Answer:

・聴取:可能になります。

 解説:ただし、あらかじめ獣医師が聴取すべき内容を指示すること、診断に必要な事項についてはその後獣医師による補充確認が行われることが必要です。

・採血:可能になります。

・X線撮影:照射はできないと考えられます。

 解説:ただし、保定は可能です。

・調剤:一定の条件下で許されると考えられます。

 解説:獣医師の指示下でのみ投薬が許されているので、どの薬品を使用するかの判断を含む意味での調剤を行うことはできません。なお、処方箋に書いてある医薬品を必要数用意する(分包や錠剤カットを含む)のみであれば、一定の条件下で可能と解釈されます(人における通達 薬生総発 0402 第 1 号 平成 31 年 4 月 2 日)。薬剤師業務においても一定の条件下で許されていますので、獣医師においても、獣医師の目の届く範囲で必要量を取りそろえることはできます。

https://www.mhlw.go.jp/content/000498352.pdf

・麻酔導入:できません。

 解説:危険性が高く、人医療でも禁止されています。

・手術の助手:体に侵襲を加えない助手業務が可能です。

 解説:手術準備、ガーゼカウント、器械出しなど体に侵襲を加えない助手業務が可能です。しかし、視野確保のためのいわゆる鉤引きなどは不可能だと考えられます。

 「獣医師が1人しかいない病院では、外科手術がほぼできなくなるのでは?」というご心配もありますが、法の解釈としては、手術業務を行うことができるのは獣医師のみです。人においても鉤引きは医師のみが許されるとしていることから、同様に解釈される可能性が高いです。

・点滴(皮下点滴含む):一定の条件下で可能です。

 解説:乳酸リンゲルなどの輸液剤注射とカテーテル留置は許されていますが、身体への影響が大きい医薬品の投与については、今後のガイドラインの策定までは、獣医師の指示の下、危険性が少ない態様で、獣医師の監視下で、トレーニングを積んでいることを前提に許されると考えておいた方が安全でしょう。

・傷の処置(消毒、バンデージなど):可能です。
解説:診療の一環として行われる、衛生上の危害を生じるおそれが少ないと認められる行為に該当します。

・マイクロチップの挿入:可能です。

 

 

Q 2. 有資格者のみ可能な行為として、「輸液剤の注射・投薬等」という表現があるが、輸液の閉塞アラームが鳴った場合に無資格者が閉塞を解除する行為は違反になるの?

Answer:無資格者による閉塞解除は、違反になると考えられます。

解説:

獣医師の指示に基づく投薬は、愛玩動物看護師の有資格者のみが行える業務であると農林水産省及び環境省が明言しています。

輸液の閉塞解除であっても、過剰投与の危険性や、閉塞原因の判断とその排除には医学的な知識が必要であり、誤れば危険性が生じます。

獣医師の判断のもと、獣医師の監視下で解除ボタンを押す行為は輸液が許されるのと同様に許されると考えられますが、明確な根拠が農水省・環境省から示されているわけではありません。

                                                  

Q 3. 「投薬」に関して、飼い主が予防薬などを自分で投与できないという理由で犬・猫を連れてきた場合に無資格者が投薬することは、違反になるの?

Answer:有資格者による投与が必要です。

解説

薬機法(第 2 条第 1 項)では、「動物の疾病の予防に使用されることが予定され又は動物の身体の構造または機能に影響を及ぼす物」は医薬品とされています。

医薬品の投与は、獣医師の指示に基づき、愛玩動物看護師の有資格者のみが行える業務であると農林水産省及び環境省が明言しています。

                                                  

Q 4. 今まで行ってきた業務であっても、無資格者はできなくなるの?

Answer:できません。

解説:

愛玩動物看護師法によって、新たに有資格者であれば行うことができるようになった業務については、無資格者に行わせることは違法であることが明確となりましたので、無資格者に行わせている場合は違法となります。

例えば、獣医師の指示のもとに行う輸液注射、採血、投薬、カテーテル採尿、マイクロチップ挿入、救命救急業務については、現時点で無資格者が行うことは違法です。

                                                  

Q 5. 今後、愛玩動物看護師有資格者がいない病院も出てくると思われるが、そのような病院に対し抜き打ち検査などが入ったりするの? もし違反していた場合に罰則はある?

Answer:愛玩動物看護師の資格なしに診療補助を行った場合、獣医師法 17 条で刑事制裁の対象になりえます。

解説:

罰則は獣医師法 27 条で「二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」です。

獣医師法 17 条違反については、過去にも無資格で手術を行った者や診察せずにフィラリア症予防薬を販売した件で捜査が行われており、今後新法施行後に一罰百戒を狙って捜査が行われる可能性があります。

                                                  

Q 6. 獣医師不在時の一次救命処置(心臓マッサージや人工呼吸など)は有資格者しか認められていないが、無資格者しかいなかった場合、「やらなかったこと」が過失になることはないのか?

Answer:獣医師が不在で有資格者もいない場合、救命処置ができなかったことが合理的であれば過失とはなりません。

解説:

獣医師と飼い主間での診療契約上の過失になるかどうかの判断において、不可能なことは要求されません。

ただし、救命処置の必要性が想定される状況で獣医師/有資格者の不在があらかじめ分かっていた場合、転院などを提案せずそのまま入院や預かりを継続したことについて過失があるかは、別論点となります。

                                                  

Q 7. 国家資格を持ってない人は目の前で動物が急変している時も救命業務をしたらいけない?

Answer:無資格者が業務としては行うことはできません。

解説:

前提として、救命を業務とし、獣医師があらかじめ定めた手順書に従って行う心肺蘇生措置に関しては、有資格者であればできます。

道で人が急に倒れた時、医師や看護師資格を持たない人でも心臓マッサージや人工呼吸、AEDなどを試みると思いますが、救命を業務(= 動物病院で反復・継続的に行う)として行う以上、能力が担保されるために資格は必要です。ただし、目の前で動物が死んでしまいそうな時に、他人の所有する動物に対し模倣的に無資格者が救命処置をとることは、その相当性・必要性が認められれば緊急避難行為として認められる余地はあります。

                                                  

Q 8. 国家資格の法律施行開始日が 2022 年 5 月 1 日(ただし附則抄第六条の規定により 10 月末までは"紛らわしい名称(動物看護師など)"を使用することができる)となっていますが、国家試験の結果発表が 2023 年 3 月 17 日なので、今年 11 月 1 日から来年 3 月 16 日までは日本国内に「動物看護師・愛玩動物看護師」が一人も存在しないという期間が生じます。上記の期間中、動物看護師の名称はどうすれよいでしょうか?

Answer:診療補助スタッフや受付事務などの名称を使用することになります。

解説:

動物看護師という名称は使用できなくなりますので、2022 年 11 月 1 日以降は動物看護師やそれに類する名称は使用ができません。

                                                  

Q 9. 国家試験の試験日に動物看護師が全員いなくなるため、病院を閉めなければいけないが、何か補助金制度などはないの?

Answer:現段階ではありません。

解説:

インターネット検索ですぐに調べられる範囲では、そのような補助金制度は見られません。また、法や施行規則・施行令にも、休業に対する補償の根拠となる条文はありません。

日本獣医師会 会長から各地方獣医師会 会長に向けての通知でも、試験日にはスタッフが少なくなる可能性があることへの言及があるものの、補助金・補償金の類には言及がありませんでした 。

                                                  

Q 10. 国家資格取得者は基本給を上げるべき? あるいは資格手当などをつけるべき?

Answer:法的に強制されるものではありません。

解説:

しかし、現場においてそのような圧力は高まることが予想されます。一方で、無資格者については採用時の条件が下がることが予想されます。

                                                  

Q 11.「うちの動物病院の動物看護師は全員国家資格を持っています!」というような掲示をホームページ(HP)に載せても大丈夫? 

Answer:問題ありません。

解説:

現在、HPは獣医療法 17 条の広告規制において、広告とはされていません。

そのため、「うちの病院の動物看護師は全員国家資格を持っています」という内容が事実であれば、比較優良による誤認ではなく、景品表示法上も問題とならず、許されます。

                                                  

Q 12. HP上に動物看護師としていた人(無資格者)をそのまま動物看護師として載せ続けていたら法律違反? 

Answer:違反になります。

解説:

無資格者を 2022 年 11 月以降も動物看護師との名称を利用してHPに掲載し続けると、愛玩動物看護師法 42 条違反とし、 20 万円以下の罰金となります。

そのため、11 月以降は原則HPの表記を変えなければいけません。「無資格者が名乗っているのではなく動物病院が変更を徒過しているだけ」と判断され、注意のみで終わる可能性も大きいですが、その保障はできないという状況です。

                                                  

Q 13. 動物看護師が採血に失敗し、犬の肢が腫れてしまった場合、これは指示した病院の責任?

Answer:はい。

解説:

雇用主は被用者が事業のために行う際の不法行為責任を負担させられるため(民法 715 条)、採血失敗の理由が動物看護師の力量不足に由来するものであれば、病院の責任となります。

                                                  

Q 14. 今まで獣医師が行っていた採血などの業務を、飼い主の前で動物看護師に行ってもらう時に不信に思われないか心配です。

Answer:飼い主に理解いただくための説明は必要です。

解説:

動物看護師が国家資格者として能力が担保され、採血などの業務が法的に許されていることをパンフレットなどでアピールしたり、処置を行う前に説明をするなどの対応が必要になると考えられます。

                                                  

Q 15. 現在も人手不足な状況で、国家資格を取得できないことで病院を離職する人が増えたりしないか心配です。

Answer:無資格者でも可能な業務はあります。

解説

無資格者と有資格者でうまく業務の分担をすることで、今まで以上に効率的な診療を可能にするという考え方もあるのではないでしょうか。たとえば、保定は今まで通り無資格者もできますし、有資格者と無資格者で留置をしている間に獣医師が必要な薬の準備をすれば、安全ながらも今までよりスムーズに業務を行えるかと思います。

時間に余裕が持てるのであれば、資格をとりたいと考えるスタッフのために、勉強時間の確保や学習支援をするなど病院として対策を講じてみてはいかがでしょうか。

                                                  

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◆特集3:愛玩動物看護師国家資格化
 「当院はこうします」動物病院アンケート      


愛玩動物看護師の国家資格化にむけて、現場の動物病院はどんな対応をしているのでしょうか。動物病院の規模によっては国家資格化への準備や対応はそれぞれ違うかもしれません。4院の動物病院の院長先生にご協力いただき、対応内容などをアンケート形式で伺いました。

                                                  

                                                 

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動物病院(1)

久米川みどり動物病院
院長:畠中道昭先生

                                    

                                                 

        

      

                   

 

      

                 

                                                              

Q1.貴院の人員を教えてください。

A1.獣医師:12 名、動物看護師:24 名、その他:19 名です。

                                                  

Q2.貴院が行っている動物看護師へのサポート内容は?

A2.費用補助はありません(獣医師国家試験も医院としての補助を行っていないためです)。ただし、勉強時間の確保をするため、動物看護師が担うプロジェクト業務を中止し、業務を軽減する措置をとります。勉強会などは自主的に行っています。国家試験までのカリキュラムがスタッフによって異なるため、申請の管理や勉強進捗の確認、声掛けは動物看護師全体で話し合って実施しています。試験直前の有給休暇の取得などには、不公平がおきないように配慮しています。予備試験に向けて、学習が遅れているスタッフがいないか確認し、個別に対応します。

                                                  

Q3.国家試験日の病院の対応は?(動物看護師不在への対応)

A3.動物看護師全員が受験する予定のため、分院については休診、本院は動物看護師以外のスタッフで予約診療を実施する予定です。

                                     

Q4.2022 年 11 月〜2023 年 3 月までの動物看護師の名称は?

A4.「動物診療助手」です。

                                     

Q5.飼い主への愛玩動物看護師国家資格の周知方法は?(これまで獣医師が行っていた業務を、動物看護師が行うことに対する説明など)

A5.院内での掲示や検査・処置前の説明により、積極的にお伝えしていきます。特に動物看護師ができる業務は、トレーニングを積み積極的に任せていく予定なので、飼い主への理解を求めていきます。

                                    

Q6.スタッフのメンタルケアやフォローの方針や方法は?

A6.今のところ、ケアをする予定はありません。状況が発生したら個別に対応します。

                                                  

Q7.国家資格を取得する動物看護師に期待していることは?

A7.動物看護師には、業務の幅が広がることによって、より誇りある仕事を楽しんでもらいたいと考えています。また、獣医師の業務負担を軽減し、獣医師はより獣医師にしかできない診断、医療行為に集中することができるため、獣医師からの期待も大きなものになっています。よりよい医療を提供していく上で、今回の国家資格化はとても重要だと感じています。                                     

                                                                                        

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動物病院(2)
オールハート動物リファーラルセンター
院長:池田人司先生

                                    

                                                  

                                                  

                                                                                                

写真は加藤元先生卒寿の会にて。下段、左端(加藤先生の右側)が池田先生。   

     

                   

      

                 

                     

                                                

Q1.貴院の人員を教えてください。

A1.獣医師:9 名、動物看護師:11 名、その他:4 名です。

                                                  

Q2.貴院が行っている動物看護師へのサポート内容は?

A2.参考書の購入やセミナーの開催などを行っています。                                    

                                                  

Q3.国家試験日の病院の対応は?(動物看護師不在への対応)

A3.外来や手術のセーブ、パートタイムの主婦などによるサポートを実施します。                                    

                                                  

Q4.2022 年 11 月〜2023 年 3 月までの動物看護師の名称は?

A4.「診療補助スタッフ」です。                                    

                                                  

Q5.飼い主への愛玩動物看護師国家資格の周知方法は?(これまで獣医師が行っていた業務を、動物看護師が行うことに対する説明など)

A5.必要なときには獣医師がサポートを行うので、安心してくださいと伝えます。

                                                  

Q6.スタッフのメンタルケアやフォローの方針や方法は?

A6.初めての試験なのでプレッシャーもあるだろうが、今回パスしなくても合格するまで挑戦してみてはどうかと伝えると、安心している様子が伺えました。                                     

                                                  

Q7.国家資格を取得する動物看護師に期待していることは?

A7.米国ではすでに国家資格であり、州によってはCertificateやライセンスをもった動物看護師が診断・処方・手術以外のすべての業務をこなしています。本邦においても、米国同様に歯科専門動物看護師、臨床病理専門動物看護師、外科専門動物看護師、救急医療専門動物看護師、内視鏡検査・CT・MRIを扱う画像診断専門動物看護師など、サブスペシャリティ部門へと進むべきであると感じています。これが動物看護師としてのモチベーションを向上させ、長期雇用を生むことで、我が国の獣医療業界の成熟が期待できるのではないでしょうか。そのためには、動物看護師の臨床教育を米国レベルに向上させることが急務だと思います。



  

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動物病院(3)
動物病院エル・ファーロ
院長:山本剛和先生

                                    

                                                  

                                                  

                                                  

       

     

                   

      

                 

                     

                                                                                       

Q1.貴院の人員を教えてください。

A1.獣医師:2 名(うち非常勤 1 名)、動物看護師:4 名、その他スタッフ:0 名です。

                                                  

Q2.貴院が行っている動物看護師へのサポート内容は?

A2.参考書の購入を行っています(個人所有ではなく院内共用のものとして)。また、現職のスタッフに関しては、セミナー・講習会費用と初回の受験料は補助する予定です。

                                                  

Q3.国家試験日の病院の対応は?(動物看護師不在への対応)

A3.業務が停滞することが明らかなので、当日は休診にする予定です。コロナ禍に入ってから完全予約制の診療へと移行しているため、以前と比べて、診察時間の変更やイレギュラーな休診日などへの対応がとりやすくなりました。

                                     

Q4.2022 年 11 月〜2023 年 3 月までの動物看護師の名称は?

A4.実際に「動物看護師」という呼称を使っていないため、現実的に問題となるのはホームページ上の表記くらいかと思われます。具体的にはまだ考えていませんが、「動物診療助手」または単に「スタッフ」のような表記にするのではないかと思います。

                                                  

Q5.飼い主への愛玩動物看護師国家資格の周知方法は?(これまで獣医師が行っていた業務を、動物看護師が行うことに対する説明など)

A5.施行日を境に業務内容がガラッと変わるということは、おそらくないと思います。院内掲示やホームページ上で少しずつ周知していくことになると考えています。

                                                  

Q6.スタッフのメンタルケアやフォローの方針や方法は?

A6.現段階では、特別な対応は考えていません。ただし、普段から病院内の雰囲気やスタッフ間のコミュニケーションを良好に保つことは、この類の問題を防ぐ上で大切だろうとは思っています。

                                                  

Q7.国家資格を取得する動物看護師に期待していることは?

A7.現段階では「期待」よりも「不安」の方が大きい、というのが正直なところです。当院のような小規模の病院では、人材確保が非常に厳しい状況が続いていますが、さらに「有資格者」という条件が加わることにより、これがさらに困難な状況になるのではないかと感じています。また、「できること」より「できないこと」が明確化されたことで、特に小規模の病院にとっては深刻なダメージに繋がる可能性が高いのではないか、というような不安が拭えません。 

  

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動物病院(4)
青戸やまだ動物病院
院長:山田雄三先生

                                    

                                                  

Q1.貴院の人員を教えてください。

A1.獣医師:2 名 動物看護師:1 名です。

                                                  

Q2.貴院が行っている動物看護師へのサポート内容は?

A2.今のところ、特にありません。

                                                  

Q3.国家試験日の病院の対応は?(動物看護師不在への対応)

A3.試験日が当院の休診日にあたり、通常の対応となる予定です。

                                                  

Q4.2022 年 11 月〜2023 年 3 月までの動物看護師の名称は?

A4.「動物診療助手」の名称を使用する予定です。

                                                  

Q5.飼い主への愛玩動物看護師国家資格の周知方法は?(これまで獣医師が行っていた業務を、動物看護師が行うことに対する説明など)

A5.国家資格保有者の存在が動物病院の社会的な評価に繋がると思うので、病院内でポスターやプリントを作り、飼い主へと徐々に周知していきたいです。

                                                  

Q6.スタッフのメンタルケアやフォローの方針や方法は?

A6.忙しい動物病院業務の中での受験勉強は、大変なことだと思います。少しでも仕事を効率化、分担できるよう、私たち獣医師側も愛玩動物看護師の役割を理解し、協力体制をつくる環境の整備が必要だと思っています。

                                                  

Q7.国家資格を取得する動物看護師に期待していることは?

A7.国家資格保有者として、技術と知識を獣医師と共に学び実践できるパートナーが生まれることは、社会にとって意義があることです。受け身にならず、動物と飼い主のために自信をもって主体的に、我々と一緒に仕事に取り組んでほしいと思います。

  

  

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