公益社団法人
東京都獣医師会
Tokyo Veterinary Medical Association
特集 獣医師なら知っておきたい「2024 年問題」の現実 |
【目次】
・巻頭言(1)大学病院紹介 第 7 回 「附属動物病院としての現状とこれまでの取り組み」
・巻頭言(2)新連載 オピニオンリレー 第 1 回「サッカーがくれた人生の宝物」
・特集 [獣医師なら知っておきたい「2024 年問題」の現実]
巻頭言(1) 大学病院紹介 |
鹿児島大学 共同獣医学部 付属動物病院
病院長 藤木 誠
鹿児島大学共同獣医学部附属動物病院は、地域の 1 次および 2 次診療施設として臨床的な機能を果たしてきました。その後 2000 年代に入り、予約診療を中心とした2次診療施設としての機能を充実させ、完全予約制へと移行して現在に至っています。同時に共同獣医学部附属の教育病院としての役割も求められており、未来の獣医師を育成する責務を負っています。本学部では、国際的に活躍できる獣医師の育成を行うために、令和元年に欧州の獣医学教育機関協会(EAEVE:European Association of Establishments for Veterinary Education)による認証を取得しました。こういった環境の整備により、診療施設として地域貢献度を向上させています。併せて、充実した臨床獣医学に関する学部学生の教育や、卒業後または生涯にわたる研修のため、臨床獣医師の研修施設としてさらに機能の充実を図りたいと考えています。
直近での施設面の変更点としては、小動物診療センターの新築と旧動物病院の改修により、病理解剖室と大動物診療センターの整備を進めました。また、軽種馬診療センターと併せて、伴侶動物や牛、馬の診療施設が整備されています(写真 1 〜 3 )。なかでも、EAEVE認証を満たすために 1 学年全体に対して臨床実習を実施したことと、各セキュリティに対応するためにそれぞれのエリアに十分なスペースを確保したことが特徴です。それに加え、Cat Friendly Clinic(CFC)のゴールドレベルに認証された構造を採用したことも特徴として挙げられます。また、CTや3T MRIなどの画像診断装置を整備したことにより、それまで地域の方々から要望のあった画像診断部門の充実も実現しました。
続いて現在の診療体制を紹介します。伴侶動物診療分野については、内科系では一般内科(感染症、皮膚、内分泌、呼吸器、消化器)と、腫瘍科、血液科、腎泌尿器科、循環器科を設定しています。そして、外科・麻酔系では軟部組織外科、整形外科、脊椎外科、歯科・口腔外科の各科を有し、検査系では臨床病理、画像診断、遺伝子検査を行っています。これらの診療科によって、地域の動物病院からの紹介に対応した 2 次診療が特徴です。動物病院からの紹介については、特に南九州を中心に九州各地から受け入れを行っています。また、産業動物分野では、牛診療科のある本院と大隈産業動物診療研修センターの 2 拠点、および馬診療科で、県内外からの手術を含めた依頼に対応しています。そして、診療を担当する教員は、伴侶動物では勤務獣医師を含めた14名が、産業動物では7名が実務に当たっています。サポートスタッフとして 14 名の愛玩動物看護師、 2 名の技能補佐員が従事していることで、日常の診療業務だけでなく、学生参加型の臨床実習を行う上でも、非常に大きな戦力となっています。
平成 29 年からは、平日の 19:00 から翌朝 6:00 までの時間帯で、夜間救急に対応しています。新型コロナ感染症 の影響で直近 3 年間は夜間の診療時間を制限していましたが、獣医師 1 名と愛玩動物看護師 2 名体制で、1日平均 3 〜 4 頭程度の症例を受け入れています。治療中の疾患の悪化、異物や中毒性食物などの誤食、交通事故などの比率が高く、かかりつけ病院と細かく連携をしながら対応しています。
教育面での体制ですが、伴侶動物、産業動物、病理の3コースに大別されます。5 年次(約 30 〜 32 名)の学生に対して合計38週/年でのカリキュラムのもと、1 学年全体がローテーションにより一斉に参加型臨床実習を行っています。令和 5 年からは 6 年前期のアドバンスコースの選択が可能となり、最大 1.5 年間の臨床実習を行えるようになりました。
人材の確保及び施設の整備など対処すべき課題はまだまだありますが、今後も大学の附属施設として新しい視点を持って持続的に取り組む必要があると考えています。
本院は紹介による完全予約制の診療施設です。メールやFAXで紹介状を送付いただき、その情報を元に診療科、受診していただく日時を調整させていただいています。
小動物診療センターの 1 階部分は外来診察(犬診察室 5 、猫診察室 2 )と、各種検査・処置スペース(X 線、超音波、 血液、細胞診、内視鏡、化学療法室など)となっています。 そして、中央に位置する広い処置スペースを囲むように、診察室や各検査室が配置されており(写真 4 )、必要に応じて診療科を超えた検討を行いながら診療しています。
2 階部分は手術エリアを中心としており、 5 室の手術室と術後の入院室とICUが配置されています。 1 階同様、中央の麻酔スペースを囲むように手術室が配置されており、手術室への動線も整理されています。
3 階は入院室エリアとなっていて、犬入院室や大型犬入院室、猫入院室に加えてドッグランを併設しています(写真 5 )。ドッグランは、入院中の犬がアクセスしやすいところと、桜島を見ながら回復のためのリハビリができるロケーションとなっているのが特徴です。
巻頭言(2) オピニオンリレー |
オピニオンリレー 第 1 回
獣医療に関する最新情報から身上話までさまざまな話題や意見をつないでいくオピニオンリレー。 記念すべき第 1 回は、三宅亜希先生が「大人になってからの趣味」についてご寄稿いただきました。 |
「テーマに縛りはありません。何でもいいです。第 1 回です」ということで、逆にものすごく悩みました。自由を与えられて戸惑うなんて、何だかつまらない大人になってしまったようで軽くショックです。
さて、自分の状況――動物病院勤務後、企業に転職して出産。子育てをしながら働いている――を考えると、女性の働き方などのテーマが順当そうですし、何となく求められている感じもします。ですが、「獣医療にまったく関係のない話でもいいです」というせっかくの新しい企画で、第 1 回から堅いテーマにしてしまうと、次に続く方たちが書きづらくなってしまいそうで、不安がよぎります。リレーのバトンを渡そうと思っている友人にこの話をしたところ、「私なら日本酒の話を書くかな?」と言っていたことですし、私が自由度を奪ってしまうのは避けたいところです。ということで、唐突ですが大人になってから始めた趣味について書きたいと思います。
私の趣味はサッカーです。応援しているチームや選手がいるとか、サッカー観戦が好きだという趣味ではなく、実際にやる方の趣味です。
きっかけは、息子が小学校 1 年生のときに少年サッカークラブに入部したことでした。息子はあまり運動が好きなタイプではないため、すぐに辞めちゃうかもなぁと思い、自分も一緒にやれば続くかな、という軽い気持ちでクラブ傘下のママさんチームに加入したのが始まりです。運動不足のお母さんたちが楽しくおしゃべりしながらボールを蹴るイメージで参加しましたが、私が想像していたそれは今思えば完全に蹴鞠でした。実際はもっとちゃんとサッカーで、おしゃべりもそこそこに真剣にボールを追いかけます。そして、そんなサッカーに私は手も足も出ませんでした。
高校を卒業してから運動は一切していませんでしたが、中学高校時代の 6 年間を真面目にバスケに費やす日々を送っていました。決して強豪ではありませんが都立高校にしてはいい成績を残していたこともあり、バスケとは全く違うスポーツとはいえ、それなりにできるだろうと思っていました。でも、そんな気持ちは開始 5 秒で崩れ去ったのでした。
まず、ボールを止められないし、まともに蹴れない。パス練習ではあらぬ方向にボールを転がし、10 秒に 1 回のペースで謝る始末。イメージとは程遠い体の動き・・・・・・。こんなにも自分のポンコツ具合を痛感する瞬間は、日頃の生活ではなかなか感じることができません。打ちひしがれると同時に、これが、私にとっては最高だったのです。
サッカーを始めたのは 37 歳のときでした。これくらいの年齢になると、日々の生活でも仕事でも、右も左もわからずどう動いていいか途方に暮れる、というような出来事にはそうそう出会うこともなくなりました。もちろんうまくいかないことや失敗はありますが、何でもある程度はこなせる毎日を過ごしていたのです。で、何となく自分がそれなりにできる人のように錯覚していたと思います。
そこにサッカーです。
あぁそうだった。自分ができる気になっていることなんて、ほんの一部だったのだ。サッカーにおいて私はド素人で何もできず、周りに迷惑をかけるだけ。でも、ここからはカメの歩みだとしても成長しかない。この「できない自分」と「できるようになる予感」が、なぜか宝物のように感じたのです。
また、日頃は何をしていても常に仕事のことが頭をよぎるのですが、サッカー中はサッカーのことしか考えられなくなります。これも私にとっては大切な時間でした。
そして何より、共に活動しているチームメイトの素晴らしさがあります。子どもの友達の親でもなく、仕事の関係者でもなく、ただ一緒にサッカーを楽しむ仲間!です。中学生の女の子が遊びでプレーしに来てくれることもあれば、上は還暦を超えている方までが現役です。大人になってからこういう知り合いを作る機会はなかなかないので、 とてもありがたくて楽しい関係です。
ある程度の年齢になってから全くの新しいことに取り組むのは、何て素敵なことかと思いました。
サッカーを始めてもう 7 年です。毎週土曜日の 19 時 〜 21 時に、小学校のグラウンドを借りて練習をしています。地域にママさんサッカーのリーグ戦があるので、月に 1 回程度は試合もあります。試合の翌日には、笑っただけで訪れる腹筋の痛み、駅の階段を一段降りるごとに襲ってくる太ももの痛みが待っていますが、心は清々しく、むしろ体調は良くなるくらいです。
ちなみに息子は小学校卒業と同時にサッカーを辞めました。息子のためと思って始めたサッカーは、今では私の大切な趣味になりました。ボールを止め、蹴れるようにはなりましたが、サッカーは全然うまくなりません。まだまだ成長できると思い、ワクワクしています。
皆さんも、大人になってからの趣味を初めてみませんか。知らない自分と出会えるかもしれませんよ。
先日行われた東京都サッカー協会主催のサッカーフェスティバル。世田谷 |
三宅亜希(みやけ あき) |
働き方改革関連法における法改正が 2024 年 4 月 1 日より施行され、自動車運転業務時間の改定が行われます。これに伴い、ドライバー不足による輸送量の減少が懸念され、流通コストの増加が予測されています。
ネット通販等に付随する家庭それぞれの問題でもありながら、動物病院業界全体としても、医薬品・フード等の流通が変化する可能性が高いと注目されています。今回は、医薬品販売代理店の皆さまにお集まりいただき、緊急座談会を開催しました。
text:小川篤志 会場提供:公益社団 日本獣医師会
篠原伸治 |
望月辰起 |
青島克明 |
三宅洋司 |
上野弘道 |
小川篤志 |
――さっそくですが、2024 年問題をテーマに挙げられた上野会長の意図を教えてください。
上野:賛助会員ミーティングで、「2024 年問題」というものが控えているというお話を受けました。臨床現場に関わる立場としては、皆さんに認識していただきたい問題だと感じました。恥ずかしながら私自身も詳しく知らない問題であったため、TOJU JOURNALを通じて会員の皆様にも知っていただき、一緒に乗り越えていけたらと考えたからです。
――そうなのですね。2024 年問題とはどんな問題なのでしょうか?
青島:実はとても大きな問題で、きっかけは働き方改革でした。これまで運送を担当するドライバーは昼夜を問わず長時間労働をしてきましたが、それが規制されるようになります。
三宅:例えば、これまで東京〜大阪間の約 500 kmを、時間外労働を含め上限なしで運送していましたが、 2024 年 4 月の働き方改革関連法(通称。正式名は働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)改正以降は各種法令を遵守すると、 1 日あたり約 300 km程度が限界となります。ドライバーを 2 名体制で運行するなど対策はありますが、雇用や賃金の問題も含め、環境は大きく変動することが予想されます。
――既に、ウクライナ問題で燃料費も高騰傾向にありますよね。
青島:そうですね。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大や、それに伴うECサイト(Amazonや楽天など)の台頭により、個別配送の増加や小ロット化が起きており、宅配ニーズは高まり続けているところです。そのため、ドライバーの負担は近年非常に問題となっている社会背景がありました。
――その結果、2024 年の法改正が行われると、具体的にはどのような変化が起きるのでしょうか?
篠原:運送費が上がるのは間違いないです。
一同:そうですね。
――運送費が上がるのはなぜでしょう?
篠原:運送業もこれまでとは違う形態を取らざるを得ません。ドライバー自体が不足しており、若い世代は特に減少している状況でもあるようです。 離職を防ぐために基本給を上げる必要もありますし、時間外手当も十分に保障する必要があります。これまでのような働き方は不可能になるでしょう。そうなると、必然的に運送費は上がるはずです。
――働き方改革で最も手を出しにくかった運送界にようやくメスが入るわけですね。日本全体の問題でもあると思うのですが、大手はどのような取り組みをしているのですか?
篠原:例えばセブン-イレブン・ジャパンは、首都圏を除く代表的なエリアでは店舗へ商品を毎日 4 回配送していますが、これを 3 回にするという報道がありました。これによりトラックドライバーの拘束時間を従来比で 2 〜 3 割減らし、二酸化炭素排出量削減にも繋げることができます。つまり、より効率的に配送することで運送費を抑える仕組みづくりを既に始めています。ローソンやファミリーマートも同様の配送効率化を模索しているようです。
――かなりシステマチックですよね。
篠原:そうですね。他にも運送費の上昇要因として挙げられるのが、自宅への配送で特に多い再配達だそうです。不在の場合に一度持ち帰り、再度配達する。これが全体の 12%程度もあるそうです。政府としては 2025 年までに 7.5%まで下げたいという目標を発表しています。
――具体的に何%くらい運送費が上 がるという試算はあるのでしょうか?
篠原:まだわかりませんね。具体的な試算はかなり難しいです。ただ、やはり働き手の減少を食い止めるための時間外労働手当なども含めると、かなり上がると予想されます。
――ほかの皆さまも同じ意見ですか?
一同:はい。
望月:私たちも具体的な試算は出せないでいますが、運送費の値上げは間違いないと見ています。しかもそれだけが理由ではありません。SDGsの観点から、二酸化炭素排出量の削減はグローバルの課題であり、そのためにも効率的な配送自体は喫緊の課題というわけです。
――一般的には、運送費が上がるとメーカーが値上げを行い、製薬販売代理店、そして動物病院でも値上げが行われる、という連鎖的な構図になる気がするのですが、いかがでしょう?
上野:動物病院は自由診療がベースにあるので、価格を上げることは可能です。代理店に比べるとですが、付加価値を高めやすい動物病院の方が比較的容易に値上げできるのではと思いますね。ただ、結局のところ、 最終消費者である飼い主さまへ転嫁されるという構図にはなってしまいます。
――「いやいや、値上げは困るよ」という動物病院の意見もありそうな気がします。
上野:それはあるでしょうね。ですので、単に動物病院や消費者だけが負担するという構図は、受け入れ難いと思われる可能性はあります。
青島:はい、おっしゃる通り動物病院さまによっては受け入れ難いと思われるケースもあるはずです。ですので、コスト削減に向けた動きは製薬販売代理店でも努力する必要があり、全社的に取り組んでいるところです。
――そういった運送費上昇のコスト削減のポイントは、どこに難しさがあるのでしょうか?
望月:一つは、これまでの発注の慣習では配送費が上がりすぎる、というところです。
――これまでの発注の慣習というと?
青島:すごくわかりやすい例は、配送数の多さですね。
一同:そう思います。
青島:例えば「この薬がなくなったから注文しよう」や「午後までに欲しいからこのフードだけ注文しよう」といったものです。つまり、少量頻回の注文です。
――それは私自身も臨床医時代は普通にやっていました・・・・・・。
上野:やはり動物病院によっては「毎日ちょっとずつ」というケースは多いのですか?
青島:もちろん、皆さんではありませんが、一定数あります。在庫を置くスペースがない、というような理由もあるようです。
三宅:そうですよね。私たちもそのご要望にできるだけ柔軟に対応してきました。しかし、 2024 年以降はそうはいかなくなるのが現状です
篠原:実際、その気持ちもわかります。 ですが、同じ箱の大きさであれば、 配送コストは同じです。ですから、中身がスカスカのときもパンパンのときも運送費は同じ。どちらが効率的か、というのは明らかです。
――つまり、頼みたいときに薬剤を 少量で注文するというこれまでの慣習では、運送費がかかりすぎてしまうということですね。
三宅:そうなります。運送会社に依頼している分、私たちだけでは如何ともしがたい問題です。これまでのような 発注回数では、私たちはもちろん、動物病院さまや飼い主さまも皆がその値上げのあおりを受けてしまいかねません。
――少量の注文は、フードと薬剤、どちらが多いのでしょうか?
望月:圧倒的にフードです。
一同:同感ですね。
望月:フードは動物病院取扱い製品だけで 100 種類以上あります。当然、病院内に全てを置けるはずがありません。しかも消費期限も限られています。ですので、「この味がダメだったから、違うラインアップを試しに一つ」というような注文は実際かなり多いです。
――スペースが限られていますから ね。効率的に行うとすれば、具体的 にはどのような施策が考えられますか?
三宅:例えば、弊社で行った施策は「5,000 円以上であれば送料を無料にする」という施策です。これによって一度にたくさんの商材が運べるので、効率化することができます。一方で、 5,000 円未満であれば送料をいただく仕組みとしました。これは、動物病院さまに丁寧にご説明すれば概ねご納得いただけました。
上野:実際、フードだけでという注文でなくても、日々の消費材を合わせて注文することは普通にありますし、可能ですからね。
――その他にも対策はありそうですか?
望月:弊社では、かかりつけの動物病院さま経由で飼い主さまから注文されたフードやおやつ、サプリメント等をご自宅までお届けするという「動物ナビ」というサイトを運営しています。また、直接動物病院さまから依頼を受けて飼い主さまへ配送するというサービスを提供しております。いずれもヤマト運輸さまに委託しています。
――それは良い取り組みですよね。 過剰在庫を置かずに済みそうです。
望月:はい。しかし、その際に住所間違いが確認されるケースがあります。例えば、以前の住所で病院カルテには登録されていても、引っ越し先の住所が更新されていないことや、お届け先住所の不明や長期不在などです。そうすると、再配達の必要がありますが、 6 月よりヤマト運輸のサービス変更に伴い、配送先住所に不備がある場合の荷物の転送サービス利用が有料となる案内がありました。その場合は、飼い主さまが着払いでお支払いをしていただくことに変更となりました。
――そうだったのですね。カルテ上に住所違いがあると、送料がお客さま負担になるということですか?
望月:そうなります。それは、必然的に動物病院さまへのクレームに繋がります。ですので、動物病院さまでもお届け先住所に誤りがないかの確認をしっかりするなど、ご負担が増えるというケースが出てきています。
――他の方はいかがでしょう?
青島:夕方の配送依頼ですね。「今からこの薬を持ってきてもらいたい」というようなご依頼です。
――夕方の配送だと、どのような問題が起きるのでしょう?
青島:時間外になるのです。弊社も労働基準法に従って運営していますが、 例えば病院が閉まる 19 〜 20 時の配送となると、どうしても時間外労働が生じます。その分、時間外手当を捻出する必要があるのですが、現状は動物病院さまからいただいてはいません。
――そうか、それは盲点でした!
上野:実際、動物病院でも診療時間外の診察は時間外手当をもらいますよね。当然、残業代として当該獣医師や愛玩動物看護師には支払いをするわけですから、それと同じということですよね。
篠原:時間外の配送は意外に多くて、この運送費は結構なボリュームになっているのが現状です。
――確かに、「明日飼い主さまが取りに来られるから、今日中に配達してほしい」という要望はありそうです。 例えばですが、具体的に「何時までに注文してほしい」というようなことはありますか?
青島:難しいですが、昼までにご連絡いただきたいですね。
一同:同感です。
――それは良いですね。明日からでもできる取り組みです。そうすれば、製薬販売代理店だけでなく動物病院もコスト削減ができますよね。
――他方で、過剰な「送料無料」の表現をやめていこうという動きもあるようですね。
望月:はい。運送業者が適正な運賃を受け取れない要因に「送料無料」の表示があるとして、表示の見直しに取り組む方針が政府から打ち出されました。全日本トラック協会からも消費者への理解を求める動きが出てきています。
――それはなぜでしょうか?
篠原:先ほど望月さんがおっしゃった通り、二酸化炭素排出量の削減につなげるためです。加えて、少量頻回の配送や長期間労働もかなり重要な問題になりつつあります。そして、やはり重要な問題は、過大な労働時間の削減ですよね。明らかに物流が増えている中、これも時代の流れとともに変わっていく必要があるからだと思っています
――他方、メーカー側の対応はどのようになっていくのでしょうか?
上野:それはまだわからないですよね。 基本的に、メーカーは週に何回、どのくらいの量を製薬販売代理店に配送するというのは概ね決まっていると聞いています。一方で、製薬販売代理店は土日構わず注文が入り、即時配達を余儀なくされているという、板挟みになっているように思います。
――そうなると、2024 年以降も送料無料の競争が続くことになれば、製薬販売代理店の利益が圧迫され、動物病院や飼い主さまにもその余波が生じかねないということですね。
上野:そうかもしれません。ですので、この問題はニュースなどで他人事として見るのではなく、こうして集まって話し合うことが重要だと感じています。
――なかなか難しい問題ということが見えてきました。ここまでの話をまとめると、(1)法改正により運送費の値上げが不可避 (2)動物病院への配送運賃の値上げもせざるを得ない状況の到来 (3)そのためには各社で新たな企業努力が必要ということだと思います。
上野:はい、その通りだと思います。
――次に、どのような対策が打てるか、について議論していきたいと思います。特に獣医師ができることについて、皆さまいかがでしょうか?
青島:先ほど申し上げた通り、まずは「まとめて注文」ですよね。一個口でなるべくたくさんの効率的な配送を行うということになります。
望月:そうですね。あとはなるべく午前中に注文いただきたいということです。そうすれば、委託している配送業者に対して時間外料金を追加せずに済みます。
篠原:あとは、予定を立てられるか、 ですね。要は予約注文です。急な注文ではなく、前もってどのくらいを仕入れ、どのくらいを定期的に配送するか、という効率化も重要になってきます。
三宅:一方で、注文量や回数などに下限や上限は設けないが、配送に対して全て料金をいただくという考え方もあるかと思います。
――確かにその通りですね。「効率化」がキーワードであると感じます。
三宅:同感です。品目は多いように見えて実は固定的にご注文いただいているものが多く、それをシステム化することでかなりコストが削減できると思います。
――上野会長の病院ではどうですか?
上野:当院では、10 年以上前から在庫量をコンスタントに維持するため、週 2 回簡単な在庫チェックをしています。棚卸しまでは行いませんが、あくまで簡易的に実施します。例えば薬箱を開けた底の部分に製品ロゴを貼っておき、もし週 2 回のチェックの際にロゴが見えていたら注文用紙に書いておく、というやり方です。
――かなり右脳的なSCM(サプライ チェーン・マネジメント)ですね!
上野:はい、右脳で考えよう!といつも言っています。これによって、短時間かつ簡単に在庫の過不足が分かるようになります。同時に、最低週 2 回の配送でも問題ないような仕組みになりつつあります。まだ発展途上ではありますが、効率化という観点のり組みの一つですね。
――そうだったのですね。効率化といっても色々やり方はありそうですね。
上野:ただし、「効率化」という言葉がひとり歩きしてほしくはないと思います。例えば「人件費が 5 割あるからそれを 4 割にしよう」や「フードの仕入れ価格を値切ろう」ということではなく、一人当たりの生産性というか提供価値をどう上げていくかの方が重要です。効率的な配送は効率的な在管理であり、効率的な在庫管理は率的な診療形態と人財配置あってのことです。結局は、一人当たりの売上総利益の最大化が目指すべきポイントです。
――そうですね。一人当たりの生産性をあげるための効率化であって、経営効率化のための人件費や運送費の削減ではないということですね。
上野:私は、今回の 2024 年問題を、いち獣医師としても考えましたし、獣医師会という立場でも考えました。 しかし、もっと俯瞰したマクロ経済においても非常に重要な問題だと思っています。もちろんそれはポジティブな意味で、です。
――それはどういうことでしょうか?
上野:まず獣医師・経営者として、こうした環境の変化によって一人当たりの価値の最大化を考える良いきっかけになると思いました。次に、獣医師会として多くの獣医師と向き合うとき、システム等の導入を推進することで、より効率的な経営ができる方法を提案できるのではないかと感じましたし、製薬販売代理店だけに押し付けるようなことがあってはならないとも感じました。何より、マクロ経済として、送料無料、値下げ、というような価格競争から抜け出ることで、デフレ経済から脱却する糸口になる可能性もあります。
――その通りですね。ありがとうございます。最後に皆さまからひと言ずつコメントをお願いします。
望月:今回の運送業に対するドライバーの時間外労働時間の上限とされた 960 時間制限は、一般的な労働者の上限 720 時間とは隔たりがあります。将来的には同じ時間にまで制限される可能性もあり、さらに厳しくなることも予想されています。そうした中、物流という部分にフォーカスして座談会を開催してくださってありがとうございます。このような機会はなかなかないので、とてもありがたく感じました。
三宅:ありがとうございました。既に来年 4 月に差し迫った中でスピード感を持って対応していきたいと思っています。業界全体で取り組んでいければ幸いです。
青島:これまでこうした議題について獣医師会と話せたことがなかったので、とても嬉しく思っています。こうした土俵をご準備いただいてありがとうございました。
篠原:セブン-イレブン・ジャパンの話などもしましたが、やはり自社でもどうしていくかという方針はまだまだ議論の余地があり、固めきれていないところもあります。皆さまがどうしているかなども知ることができて大変有意義でした。また、獣医師の皆さまにも少しでも伝われば幸いです。企業努力を継続してまいりますので、引き続きよろしくお願いします。
――皆さま、お忙しいところありがとうございました!引き続きこうした議題については注視して参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。
一同:ありがとうございました。