


【目次】
会員の皆様におかれましては、新春を迎え心よりお喜び申し上げます。
これからの世界は、ワンヘルス・アプローチに基づき、人と動物と自然環境の健康を実現する活動がますます重要であると考えています。すべての生命と自然は相互に依存し一体であり、私たちの行動が地球とその生命体すべてに影響を及ぼし、私たち自身もまた自然と他の生命体から影響を受けるという相互依存性を忘れず、全体最適の視点を持ち続けることが重要です。
2019 年に始まったCOVID-19 の流行が示したように、社会福祉水準の低い地域での感染拡大は、医療へのアクセス不足や教育水準の低さ、貧困などが要因となっており、世界中がつながっている現代において忘れてはならない教訓です。獣医療の現場では、抗生物質や駆虫薬の誤用・多用が薬剤耐性菌や自然環境破壊をもたらし、それらが人間や動物の健康に悪影響を及ぼすことがあります。
動物業界だけでなく、社会全体が一つになって取り組むべきワンヘルス・アプローチの考え方は、幅広い分野で活躍する獣医師が、その存在意義をさらに高め、広げ、深めるものであると確信しています。全体最適の視点を持ち、世界を俯瞰的に見渡すことで、私たちの役割や取り組むべき課題はさらに広がります。動物との関わりに留まらず、人や社会、地球の健康を考えることが、未来を作る鍵となります。柔軟な思考を持ち、時代のニーズに合わせた行動をとることが求められています。
獣医師のあり方として、「獣医師 4.0」という表現をこれまで用いてきました。これは、獣医師が活躍してきた対象の変化を歴史的に捉えたものです。獣医師の主な役割は時代ごとに変遷してきました。1.0 は軍馬を対象とし、戦時や軍事の場で馬の健康管理を担った時代です。2.0 では産業動物を対象とし、主にタンパク源としての動物の健康維持が重視されました。3.0の時代には伴侶動物、すなわちペットの医療と福祉に焦点が移り、家庭で飼育される動物との関係の深化が求められました。
4.0では社会全体を対象とし、行政・大学・伴侶動物/産業動物/野生動物/動物園動物の臨床・企業・政治など、多岐にわたる分野で活躍する獣医師が協力し、また他分野の専門家と協働して役割を果たす時代です。その結果、人・動物・社会のWell-beingが達成されると考えています。これは、人と動物、社会環境が相互に健全であることを促進し、幸福に満ちた社会の実現を目指しています。中国には「小医は病を医し、中医は人を医し、大医は国を医す」という言葉がありますが、これは社会病理や社会制度の不備を思い出させるもので、獣医師4.0への進化は、獣医師が医療提供者としての役割を超えて、公共政策や社会全体の健康を守るリーダーとしての責務を担うことを意味します。
このような考えのもと、東京都獣医師会を考えると、会員獣医師の優れた技術や経験を連携させて、人・動物・社会のWell-beingを実現し、社会的評価を高めていくことが重要であると考えます。「獣医師」会は獣医師の会です。開業獣医師、勤務獣医師、公務員、企業・団体勤務の獣医師など多岐にわたる役割の獣医師が含まれています。それぞれがスキルや経験を生かして活躍できる組織づくりを進め、行政や社会との関係を深めていくことが願いです。
獣医師は国家資格を持ち、その資格を生かして社会に価値を提供し続けることで、社会的地位を高めることができます。特に組織としての力を活用し、時代の変化に対応することが重要です。獣医師としての矜持を持ち、社会に貢献していくという同質性を尊重しながら個々の多様性を最大限に生かすことで、会員全体の力を引き出し、社会的影響力を増すことができると信じています。
獣医師 4.0の実現に向けては、会員であることの価値を高め、会員数を増やしていくことが大変重要です。高い理想を掲げても、日々の生活が犠牲になっては意味がありません。会員が日常的に喜び・幸福・安心を感じられる施策を具体的に推進していく努力を続けます。現在、解決に向けて尽力しているのは、新規の医療用麻薬購入の問題や、災害時の互助の仕組みです。これらは現在進行形であるため、具体的な成果をお伝えできず心苦しいですが、最優先課題として取り組んでいます。
また、委員会を中心に、会員制度の見直しを検討しています。組織の活性化と会員が喜びを感じられる獣医師会を目指し、一人一人の興味や得意分野を生かし、活動の趣旨に賛同しながら積極的に参加できる仕組みを模索しています。学校飼育動物、動物防災、動物福祉、学術、国際交流など多様なテーマにおいて、「社会貢献活動に参加したい」「コミュニティの一員として参画したい」といった会員のニーズに応えることを目指します。これにより、会員の興味を組織で実現し、社会に貢献する組織としての価値を高め、会員と非会員との差別化にもつなげていきます。
私たちは新たな挑戦を始めています。変化には良い面と難しい面がありますが、75 年の歴史を持つ東京都獣医師会の「先輩方」からの資産に感謝し、この資産は「後輩」から預かっている大切な資産であるという考え方で運営し、変化を恐れず、時代に合った挑戦を続け、会員の皆様とともに獣医師会および獣医療の未来を切り拓いていきたいと考えています。
令和 7 年の皆様のご健康とご多幸を祈り、新年のご挨拶といたします。
「なぜあの病院は人が集まるのに、自分の病院には人が来ないのか?」リクルートに関する悩みは現在の獣医療においては不可避なものです。本特集では、獣医師に限らず求職者が集まるところには必ず理由があるはずということで、動物病院だけでなく企業、そして東京都獣医師会主催の就職説明会の理由を探ってきました。「選ばれる病院」になるためのヒントが見つかるはずです。
今回、獣医師資格を持つ方が多数在籍する獣医療関連企業 2 社(ペットフードメーカー:日本ヒルズ・コルゲート株式会社と、獣医療教育出版社:株式会社EDUWARD Press)に、獣医療業界におけるリクルートについてお聞きしました。リクルートに課題を抱える先生方の参考となれば幸いです。
農林水産省で掲示している獣医事をめぐる情勢(令和 6 年)では、小動物診療に従事する獣医師は 16,541 人、愛玩動物看護師は 21,632 人。獣医大学を卒業して小動物の臨床現場に就職する新卒獣医師は 40%以上。年々その傾向は増えている。
年代別男女比では、20代の女性比率が 55%を超す現状があり、小動物診療に進む女性の割合は高くなってきている。昨今は女性が産休や育休を経て仕事を長く継続していきたいというだけでなく、男性でも長期的に安定した勤続をしていきたい意向の若者が多い傾向である。
企業での獣医師採用の工夫「キーワード」
今回のお話では、企業での採用の背景や仕組み、採用時や面接でのポイントについて伺いました。企業経営者の想いや方針をもとに実施する事業計画として策定するとともに、採用計画を年度ごとに検討されているのですね。動物病院も、院長先生や経営に携わる方々が、病院の運営計画に基づいた採用人材の明確化や従業員が長く働きやすい環境・仕組みの整備など、雇用までの対策がより必要な時代に移ってきているのではないでしょうか。
採用のポイントや長期定着のコツなどについて、羽根木動物病院の有井 良貴 先生と、三鷹通りどうぶつ病院の齋藤 隆広先生にインタビュー取材を行った。なぜ、両病院のリクルートが順調であるのか。その手がかりを見つけたい。
羽根木動物病院院長
有井 良貴
Yoshitaka Arii
病院のホームページや求職サイトから応募してくるケースが中心です。それ以外は友人や知人の先生からの紹介で、全体の1割ほどを占めています。以前は大学に募集要項を出したり、ウェブの求人広告も試したりしましたが、応募者はほとんどいませんでした。私は再生医療のほか、腎臓病やFIPの治療に力を入れており、また、猫専門の分院も運営しています。これらの特色に、自身のやりたいことが一致した方から応募いただくことが多い印象があります。
また、採用の際は私一人で判断せず、何回か実習に来てもらい、スタッフ全員の意見を聞いた上で合否を決定しています。「もったいないな」と思いながら、採用を見送ることもあります。
昔は職場に「働きやすさ」を求め、待遇面を気にする先生が多かったと思います。今は、自分のやりたいことができる病院を選びたいと考える人が多い印象があります。実際、当院に応募してくる求職者や学生も、その傾向が強いです。
スタッフの自主性を重んじ、皆で病院をつくっているという感覚を大切にしています。例えば最近、血液透析器を導入したのですが、それはうちのスタッフから「血液透析をやりたい」という提案を受けてのことでした。 定期的な面談や日々の聞き取りを実施し、本人の要望や悩みなどを把握しています。やりたいことが分かれば、なるべく早く実現するようにしています。
とにかく怒らないこと。伝えなくてはならないことは伝えるけれど、感情的にならないよう注意しています。
あとは、それぞれのスタッフの自主性を大事にして、一人ひとりに親身に向き合うことが大切なのではないかと思います。ある意味、「自分の病院だと思わないこと」が、うまくいっているポイントなのかもしれません。
羽根木動物病院
〒156-0042 東京都世田谷区羽根木2-26-2 羽根木イースト1F
従業員数: 全 21 名(獣医師 8 名、愛玩動物看護師 6 名、 トリマー 6 名、事務 1 名)
三鷹通りどうぶつ病院 院長
齋藤 隆広
Takahiro Saito
有料の求人サービスなどは利用せず、交流のある先生や、その知り合いの先生から紹介されてくるケースが大半です。特に大学に勤務している先生の場合は教え子の就職先を探されているため、互いに需要と供給があるといえます。自分自身、腫瘍科の診療に力を入れていることから、そのつながりで紹介いただくことも増えました。自分の専門性を高めることで人脈も増え、結果的に同じ分野を強化したい人材が集まってくる流れができ上がっているように感じます。
また、当院に就職を希望する人には、1 日でよいので実習に来てもらい、雰囲気をみてもらっています。前提として、スタッフ間の雰囲気や飼い主さんとの診療時の様子など、病院の空気感が「自分に合う」と感じられるかどうかが大切であると思っています。他院の先生が見学に来られると、「皆さん友達みたいに仲がよいですね」 といわれるほど和やかな雰囲気があるようです。
新人獣医師には、基本はマンツーマンでしっかり指導しています。最低限の知識を教えたら模擬診療の場を設定して、無理なく仕事を覚えてもらいます。普段の診療で飼い主さんとの十分な対話を重視していることもあり、新人が入ったときも、対話力を磨くトレーニングに力を入れています。やはり基本はしっかりやる、というのは徹底しています。
また、スタッフの中には整形外科や眼科など、私の専門外の分野を学びたい人もいます。その場合、当院での勤務日数を減らし、関心分野のスペシャリストがいる病院での研修を許可しています。当院で働きながらキャリアアップできる働き方を提案しています。
それから、独立を希望する獣医師には可能な限りの外科手技や病院経営のノウハウなどを伝え、独立を応援するようにしています。自分がお世話になった院長先生にいろいろ教えてもらったというのもありますが、若い人に活躍の場を広げてもらうのが嬉しいです。
やはり、飼い主さんとの対話が一番重要であると思います。じっくりお話を伺い、それぞれの症例の性格や飼い主のライフスタイルに応じた治療選択肢を提示することで、亡くなってしまったときも「先生が最後まですごくよくしてくれた」「1年でも長くいられてよかった」などと言っていただけたとしたら、自分としてはそれが一番嬉しいです。飼い主さんとの対話力を磨くことの重要性は、若いスタッフにも伝えていきたいです。
三鷹通りどうぶつ病院
〒181-0013 三鷹市下連雀4-20-20 野中ビル1F
従業員数: 全 9 名(獣医師 5 名、愛玩動物看護師 4 名)
東京都獣医師会 担当理事 宮下めぐみ
当会主催で初開催となる対面式の合同就職説明会を、2024 年 10 月 12 日に開催いたしました。多くの会員病院、獣医学生、動物看護学生にご参加いただき、楽しく有意義な時間を過ごしてもらうことができましたので、ご報告いたします。
【開催概要】
【開催内容】
昨今の社会問題でもある人手不足は小動物臨床でも例外ではなく、多くの会員病院から信頼性が高いリクルートの場の提供についての要望を以前からいただいていた。当会では、支部に獣医大学、賛助会員に動物看護学生養成学校があるという強みもあり、会員へのメリットとなる新たな事業を提供したいという意図から、オンラインとオフライン(対面式)両方の合同就職説明会を初開催することになった。オンラインは2024 年 3 月末に 2 日間にわけて行い、参加した会員病院と学生には満足度が高いアンケート結果をいただいた。それを踏まえて、今回はオフラインでの初開催となった。
今回、本企画は賛助会員である株式会社HUMO様に事務局に入っていただき、公益社団法人である強みを活かすオリジナルの企画を組み立ててもらった。求人を出した病院が会場にブースを設置し、学生が説明をそのブースに聞きに行く点は一般的な合同就職説明会と同じであるが、学生が説明を聞くブースを迷うなど、学生、病院双方の時間のロスを防ぐために、申込時に学生に説明を聞きたい病院の傾向を確認しておき、説明を聞く病院をあらかじめ決定しておく仕組み(オーダーメイド型)とした。この結果、希望した病院の説明に加え、さらに多くの情報を得ることにつながり、学生のアンケート結果は「大満足 75%」「満足 25%」「普通・不満足 0%」 と満足度の高い結果となった(図1)。
また、「気になる病院をみつけられたか?」という質問には 97%の学生が「はい」の回答であった。この結果から、提案型に慣れているZ世代に合った企画になっていたと感じた。参加病院側のアンケート結果も「大満足 18%」「満足 82%」「普通・不満足 0%」の結果であった。
図1 合同説明会のアンケート結果
アンケート対象者:2024 年 10 月 12 日の合同就職説明会参加者 47 名中、40 名が回答(動物看護学生 33 名、 獣医学生 7 名)
今回、開催に際して担当理事として現在の獣医学生、動物看護学生の就職に対しての意識はどうなっているのか?という点を調査したいと思い、獣医大学、動物看護養成学校の就職課のいくつかを訪問し、就職担当に話を伺った。ほとんどの学校で担当から口をそろえて出てくる言葉は「就職ということに対しての意識が低い」であった。合同就職説明会を学校で開催してもほとんど学生が集まらず、ネットのみでの情報収集やエージェントを利用しての就職活動に頼りがちであるとのことであった。その結果、就職先とのミスマッチングが生じていることも多いようである。
私はキャリアコンサルタントの資格を持っているが、その視点では「自分が何者なのか?どのように今後働きたいか?」といった「キャリア思考」の視点を持つことは、人がよりよく働いていくためにとても重要である。それは初めて就職するときはもちろんのこと、その後の人生においてもずっと必要である。その理由としては、変化が激しい社会情勢であること、また、結婚、出産、育児、介護など、ライフイベントによって自分の環境も常に変わっていくことが背景として挙げられる。
この「キャリア思考」の意識が学生において低いことは社会の大人の責任であると私は感じる。家庭、幼少期からのキャリア教育はもちろんであるが、獣医療は専門性も高く特殊な職場であることも踏まえ、当会としては、獣医療のキャリア教育を担う一つの事業として成長させたい。この方向性に賛助してくれる学校との連携を深めていき、会員病院、学生、学校のそれぞれのメリットとなるよう尽力していく。
ぜひ、会員病院にはそれを期待して今後の合同就職説明会にご参加いただきたい。
本特集では獣医業領域のリクルート事情について、(1)企業対談、(2)院長インタビュー、(3)当会主催の就職説明会の報告に分けて紹介しました。
特集(1)の「日本ヒルズ・コルゲート× EDUWARD Pressの企業対談」では、求職者・新卒者を採用する際、年度ごとの『事業計画・採用計画』を策定した上で、会社の経営理念や事業計画をもとに採用方針を決定することの重要性を語っていただきました。動物病院においても、院長先生や経営・採用に携わる方々が、病院の運営計画に基づいた採用人材の明確化や、従業員が長く働きやすい環境・仕組みの整備など、雇用までの対策がより必要な時代に移ってきているのではないかと考えます。
特集(2)の「個人病院のリクルート事情」では、羽根木動物病院院長の有井良貴先生と、三鷹通りどうぶつ病院院長の齋藤隆広先生に、なぜ、両病院のリクルートが順調であるのか、についてお話を伺いました。両先生とも、専門分野に特化することで同じ専門分野を学びたい新卒者・求職者の目に留まり、自院への募集につながっているようでした。また、募集の際には病院のホームページや求職サイトへの情報提供はもちろん、知り合いの先生からの紹介も重要な要素であることがうかがえます(図1)。加えて、実習で病院の雰囲気を感じ取ってもらうことで新卒者・求職者のミスマッチを防ぎつつ、長期的に活躍してもらえる人材確保につながると思われます。
このような求人側・求職側双方にとって有益な情報を提供するために、当会では特集(3)で紹介した「合同就職説明会」を初めてオフライン形式で開催しました。学生・病院双方のミスマッチを防ぐためにオーダーメイド型の説明会方式とした結果、新卒者・求職者は希望した病院による説明に加え、さらに多くの情報を得ることにつながりました。当会では今後もこのような就職説明会を予定しており、会員病院の皆さまには是非ご参加頂きたいとのことです。
今回は「みんなが知らない動物病院のリクルート」と題して特集を組みました。本特集がリクルートに悩む院長先生方の一助となれば幸いです。