E型肝炎(Virai Hepatitis E)

感染症法:四類感染症

概要

E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus ; HEV)の経口(糞口,水系)感染により惹起される肝炎である.

疫学

非A非B肝炎とよばれたウイルス性急性肝炎の1つで,慢性肝炎の原因とはならない.致死率はA型肝炎の10倍と言われ,妊婦の場合では20%に達するといわれている.従来,先進国では散発的に発生している.わが国では,輸入感染症と考えられてきたが,最近,イノシシの生レバーの摂取,野性の鹿肉の生食により急性E型肝炎が発症し,死亡例の報告などから動物由来の人の感染が確認されている.

感染経路

経口感染,糞口感染.

伝搬動物

HEV抗体は多くの動物で確認されているが,RT-PCR法によるHEV遺伝子が豚,ラット,鹿から検出されている.

病原体

HEVは直径約38nmのエンベロープを持たない小型球形のウイルスで,内部に約7.2Kbのプラス一本鎖RNAを遺伝子として持っている.形態学的にはノロウイルスに類似している.HEVにはG1からG4まで4つの遺伝子型が報告されている.豚から検出された遺伝子型はG3とG4だけである.

動物における本病の特徴

症状

豚は無症状であるが,病理学的検査では肝臓に軽度の炎症像が確認される.

潜伏期

不明.

診断

RT-PCR法によるHEV遺伝子検出,血清学的検査.

検査法と材料

生後2〜3ヵ月齢の豚の糞便からHEV遺伝子が検出される.血液,肝臓から遺伝子型の同定により感染源の疫学調査が可能である.特異的IgM抗体の検出.

法律

感染症法の4類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.

人における本病の特徴

症状

一部の不顕性感染を除き,発熱,悪心,食欲不振,全身倦怠感,腹痛等の消化器症状を呈する.肝腫大,肝機能障害が見られ褐色尿を伴った強い黄疸が急激に出現する.また,ウイルス血症が黄疸に先立ち出現し,ウイルスが糞便に排泄される.一般に予後は良好で,普通1ヶ月程度で回復し,慢性化することはない.しかし,HEVの特徴の一つに妊婦での劇症化の割合が高く,死亡率が10〜20%といわれている.

潜伏期

平均6週間(15〜50日間).

診断と治療

RT-PCR法によるHEV遺伝子の検出,血清学的検査.治療は対症療法(安静と食事療法)のみで,劇症化時には,血漿交換,人工肝補助療法,肝移植などの特殊治療が必要となる.

検査

動物と同様.

鑑別診断

A型肝炎

予防

野生の鹿肉の生食後,本症を発症した報告例もあり,鹿肉(野生),イノシシや豚の生レバーなどの生肉摂取をせず,飲食物は加熱を行う.豚などに接触した後には手洗いの励行や衣服等の交換をする.

法律

感染症法の四類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.食中毒が疑われる場合は24時間以内に最寄りの保健所に届出なければならない.

(荒島 康友)

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