野兎病(Tularemia)

感染症法:四類感染症家伝法:届出伝染病

概要

野兎病菌Francisella tularensisにより,発熱その他多彩な症状を示す急性熱性疾患である.自然界において本菌はマダニ類などの吸血性節足動物を介して,主に野サギやげっ歯類などの野生動物の間で維持されており,これらの感染動物から直接あるいは間接的にヒトが感染する.近年,わが国において野兎病は稀な感染症である.本菌は生物テロに使用される可能性のある病原体にリストアップされている.わが国では「大原病」として古くから知られている,代表的な人獣共通感染症の一つである.

疫学

1910年にMcCoy及びChapinがカリフォルニア州ツラーレ(Tulare)郡のペスト様疾患のハタリスから病原菌を分離し,1921年に現在の英名 tularemia(ツラレミア)と命名した.北緯30度以北の北半球で発生が見られ,日本では東北・関東地方で多く見られ,ダニの活動する5月と狩猟期の12月に多い.近年ではアウトドアライフ中にダニなどの媒介動物から,また感染した犬などからの感染が問題となっている.

感染経路

ヒトへの感染は,主に感染野ウサギとの接触であり,保菌動物の剥皮作業や肉の調理の際に感染する.稀に,マダニや蚊の刺咬,飼猫やリスによる引っかき傷などからの感染例もある.また,汚染された干し草,藁などのエアゾルの吸引による呼吸器感染例もある.

保菌動物

野ウサギ,野ネズミ類などの野生動物のほか,多種類の哺乳動物,鳥類,爬虫類,両生類,その他マダニ,蚊などの吸血昆虫からも菌が分離されている.

病原体

Francisella tularensisは好気性のグラム陰性短桿菌(0.2〜0.7μm)で多形性を示す.非運動性で芽胞は無い.マクロファージ内で増殖する細胞内寄生菌である.野兎病菌は血清学的には単一である.

動物における本病の特徴

自然界において,マダニ類などを介して,主に野ウサギや野ネズミなどの間で維持されている.

本病は多くの動物に感受性を有するが,特にウサギ類,げっ歯類などが感受性が高い.家畜では,めん羊,山羊などが高感受性で,馬,牛および豚は感受性が低い.

症状

ウサギやげっ歯類では,発熱,呼吸数・心拍数の増加,嗜眠,食欲不振,硬直歩行などお症状がみられ,敗血症を起こして死亡する.めん羊では,元気・食欲消失,関節硬直,下痢などにより次第に衰弱し,横臥し死に至る場合がある.馬は,発熱および四肢の硬直・水腫を示し,仔馬は呼吸困難および運動失調を呈する.成豚では感染しても発病することは稀であるが,子豚では発熱,沈うつ,発汗,呼吸困難などの症状がみられ,7~10日の経過で死亡する場合がある.

潜伏期

野生動物では不明であるが,実験的には8〜15日程度である.

診断と治療

菌分離に際しては,ユーゴン血液寒天培地,IsoVitaleXを添加したチョコレート寒天培地などを用いて分離する.蛍光抗体法,凝集反応や皮内反応.最終的には菌体特異抗血清との反応や遺伝子検査の結果により総合的に判断し,同定する.

治療にはアミノグルコシド系の抗菌薬,その他テトラサイクリン系およびマクロライド系抗生物質が有効である.

検査法と材料

病巣材料からの直接分離は困難なため,一度マウスに接種した後,シスチン加ユーゴン血液培地にて培養する.

予防

媒介動物のダニの駆除,野生動物との接触を避ける.流行地へ行く場合には抗菌剤の予防的な投与は有効である.

法律

家畜伝染病予防法の監視伝染病(届出伝染病)として届出が義務づけられている.対象動物は馬,めん羊,豚,いのしし,兎.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所へ届出る.感染症法でも4類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.

人における本病の特徴

わが国において,ヒトの野兎病は非常にまれな感染症で,毛皮を扱う従事者,食肉業者,猟師などの職業病的な傾向である.

症状

潜伏期は3日を中心に7日以内がほとんどであるが,2週間から1ヶ月に及ぶこともある.インフルエンザ様の全身症状ではじまり,突然の発熱,頭痛,悪寒戦慄,筋肉痛,関節痛が見られる.その後,弛緩熱として長期化し,所属リンパ節の腫脹,潰瘍または腫瘍化する.臨床的病型は菌の侵入部位により多彩な臨床像を呈し,下記のような複数の病型が知られる.

診断と治療

野兎病菌の分離は,上記の動物における本症の特徴の診断と治療の項を参照.

治療には,アミノグルコシド系抗菌薬のストレプトマイシンもしくはゲンタマイシン,その他テトラサイクリン系およびマクロライド系抗生物質が有効である.

類症鑑別

ツツガムシ病,日本紅斑熱,結核,猫ひっかき病,ブルセラ症, 鼠そ咬症,ペストなどとの鑑別が必要である.

予防

流行地での野ウサギやげっ歯類などとの接触を避け,動物の死体,保菌動物を取り扱う場合には,必ずゴム手袋を着用する.また,ダニや昆虫の刺咬を防ぐため忌避剤の使用や防虫服を着用する.なお,米国では実験室バイオハザード対策として弱毒ワクチンが使用されている.

法律

感染症法の4類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

(池田 忠生)

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