トキソカラ症(幼虫移行症)(Toxocariasis)

感染症法:五類感染

概要

動物の寄生虫卵や幼虫が偶然人に感染し,成虫になりきれずに幼虫が体内を移行してさまざまな障害をもたらす感染症を幼虫移行症と呼ぶ.このうち,犬回虫や猫回虫のようなトキソカラ属回虫の幼虫による移行症をトキソカラ症と呼んでいる.移行する部位により,眼移行型と内臓移行型に分類される.

図1.犬回虫の生活環 CDCウェブサイトより改変
https://www.cdc.gov/parasites/toxocariasis/biology.html) 

疫学

わが国での発生流行状況を正確に把握することは困難であるが,高山らは1995年から2004年までの文献検索で,42の症例の記載があったと報告している.それによると,発生年齢は10歳未満は少なく,10~14歳未満と50歳代に多く見られた.また,眼移行型が多く報告されている.さらに,犬との関連は11例,猫との関連は3例に報告されている.その他,牛肝の生食によるものが9例,獣肉の生食が4例報告されていた.

感染経路

次の2経路から経口感染する.

犬・猫を飼育している環境か,それらの糞便が含まれる公園の砂場などにおける成熟虫卵の経口摂取.

待機宿主となる鶏や牛などの肝臓などの生食という食習慣による成熟虫卵の経口摂取.

犬回虫(Toxocara canis),猫回虫(T. catti)はともにトキソカラ属に属し,それぞれの宿主の小腸内に寄生する.糞便とともに排泄された虫卵は2~3週間で成熟した幼虫包虫卵となり,感染能力を持つようになる.成犬において成虫は腸内には認められず,筋肉内に潜んだ幼虫が妊娠時に胎盤を通じて子犬に感染する.猫においては胎盤を介して感染せずに乳汁を介して子猫に感染する.

動物における本病の特徴

症状

犬回虫に感染した犬も,猫回虫に感染した猫もほとんど終宿主のため無症状である.大量に感染すると,腹部が膨満し,削痩,異嗜,元気消失などが見られる.

診断と治療

臨床症状と糞便検査による虫卵の証明.治療にはパモ酸ピランテル,プラジカンテルなどが有効.

予防

ワクチンはない.犬・猫回虫ともに母子感染の可能性があるため,とくに幼時期の駆虫が重要.虫卵検査では確認できないことがあるため,すべての犬に対して2週齢に達した時点で駆虫薬投与を開始し,3ヵ月齢までは2週間おきに再投与を行い,3~6ヵ月齢では毎月,その後も定期的に駆虫することが推奨されている.猫においては6週齢から定期的に駆虫する.

法律

特に規制されていない. 

人における本病の特徴

本症の症状や程度は感染した幼虫の数と移行する部位によって異なる.

症状

内臓移行型:好酸球増多,悪寒,発熱,咳,肝腫大,筋肉痛,てんかん様発作.

眼移行型:視力低下,霧視,硝子体混濁,網膜の隆起性病変,ブドウ膜炎.

診断

ELISA法,ゲル内沈降反応など

治療

チアベンダゾール,ジエチルカルバマジン,メベンダゾールなど

予防

幼児が犬や猫に触ったり,砂場で遊んだりした後には必ず手を洗う.鳥などの加熱不完全のレバーを食する場合は注意する必要がある.

法律

特に規制されていない.

 

(佐藤 克)

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