重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)

感染症法:四類感染症

概要

2012年に国内で初めて報告されたマダニ媒介の新興感染症(emerging infectious disease)であり,人獣共通感染症(zoonosis)である.人に発熱,消化器症状(嘔気,嘔吐,腹痛,下痢,下血),白血球減少,血小板減少,肝酵素上昇,CK(クレアチニンキナーゼ)の上昇を主徴と重篤な疾患を引き起こし,致死率が高い.猫や犬も人と同様の症状を呈するが,猫は人よりも重症で,犬は人よりも軽症である.マダニからの感染だけではなく,患者から人,発症猫から人,発症犬から人への感染も報告されている.マダニ対策が最重要であるが,発症動物からの感染も注意が必要である.SFTSは出血熱である.

疫学

マダニ,主にフタトゲチマダニHaemaphysalis longicornisがウイルスを保有している.マダニ内では,経ステージ感染,経卵巣感染でウイルスが伝播・維持されている.ウイルス保有マダニが人を含む動物を吸血する際に,ウイルスが感染する.人を含むほぼ全ての哺乳動物が感染する.ウイルス感染動物がウイルスを血液中に保持するウイルス血症(Viraemia)になり,吸血している別のマダニへとウイルスを伝播する.患者から医師や家族などが感染するマダニを介さない人-人感染が報告されている.また,発症動物からの咬傷,発症動物との濃厚接触により獣医師や飼い主が感染する動物-人感染もある.

発生が報告されている国は,中国,日本,韓国,台湾,ベトナム,タイなどのアジアの国である.日本では,西日本を中心に発生が報告されている.発生地域は拡大傾向である.アメリカには,近縁なHeartlandウイルスが存在しており,人に病気を引き起こしている.

ほぼずべての動物が感染すると考えられているが,SFTSを発症する動物は人,猫,犬,チーターである.現在まで,猫では年間185頭(2022年)の報告があり,致死率は60%以上である.犬も報告されているが猫よりも発生数は少ない.西日本の動物園では2頭のチーターの感染による死亡が報告されている.

病原体

ブンヤウイルス綱Bunyaviricetes, ハレアウイルス目Hareavirales,フェヌイウイルス科Phenuiviridae, バンダウイルス属Bandavirusに属するSFTSウイルスである.SFTSウイルスはエンベロープを有しており,各種消毒薬や熱に弱い.ウイルス遺伝子は,一本鎖マイナス鎖RNAであり,3分節からなっている.SFTSウイルスは中国型と日本型の遺伝子型に区別することができる.国内分離株の多くは日本型であるが,少数ながら中国型も存在している.

動物における本病の特徴

症状

猫では,人とほぼ同様で,発熱,消化器症状(嘔気,嘔吐)を主徴とする.黄疸が頻発する.血液所見では,血小板減少(30万/㎣未満),白血球減少(5500/㎣未満),血清酵素(AST,CK)の上昇が認められる.T-Bil(総ビリルビン)の上昇も多い.致死率は60%以上である.犬もほぼ同様の症状を示し,一部は死亡している.しかし,犬は,猫や人に比べて軽症で,不顕性感染も多いと考えられている.

表1 SFTS発症猫に認められた臨床症状

正常値 SFTS発症猫 異常猫の割合
元気消失 - - 100%
発熱 (over 39℃) - - 83.3%
黄疸 - - 92.3%
嘔吐 - - 62.2%
下痢 - - 6.7%
致死率 (%) - - 57.7%
白血球減少(10^3/µl) 5.5-19.5 3.6 (0.6-17.1) 81.7%
血小板減少(10^3/µl) 300-800 56.0 (0.0-422) 96.7%
ALT/GPT (U/l) 6-83 145.1 (21-1000<) 42.9%
AST/GOT (U/l) 26-43 267.1 (37-1000<) 88%
CK/CPK (U/l) 7.2-28.2 714.2 (86-2306) 100%
T-bil (mg/dl) 0.10-0.50 4.3 (0.2-12.6) 95.9%

潜伏期

不明(約1週間程度).

診断と治療

主に血清,補助的に口腔並びに肛門拭い液からの病原体や病原体遺伝子の検出,血清から抗体の検出.

治療は,動物では対症療法.

類症鑑別

猫・犬では白血球が減少するパルボウイルス感染症の否定は重要である.ワクチン歴などを考慮する.しかし,特徴的な症状がないので,実験室診断(RT-PCRやELISA)が重要である.マダニ除去剤などの使用している場合も感染例があるので注意が必要.

検査材料

血清,口腔並びに肛門拭い液.

検査施設

検査機関は,国立感染症研究所,宮崎大学,長崎大学,山口大学,東京農工大学,北海道大学にあり,いずれかに依頼する.遺伝子検査をしている検査会社もある.

SFTS検査依頼について

予防

ワクチンはない.マダニ駆除薬の使用,散歩前のマダニ忌避剤の塗布,散歩後のブラッシングの実施.

法律

動物では特に規制されていない.

しかし,診断した場合は,情報収集のために検査依頼書の内容を国立感染症研究所に連絡する.

人における本病の特徴

症状

発熱,消化器症状(嘔気,嘔吐,腹痛,下痢,下血)を主徴とし,ときに,腹痛,筋肉痛,神経症状,リンパ節腫脹,出血症状などを伴う.血液所見では,血小板減少(10万/㎣未満),白血球減少(4,000/㎣未満),血清酵素(AST,ALT,LDH)の上昇が認められる.致死率は27%程度である.

潜伏期

6~14日.

診断と治療

血液,血清,咽頭拭い液,尿から病原体や病原体遺伝子の検出,血清から抗体の検出.

治療は,ファビピラビル(Favipiravir)が認可された.

類症鑑別

特徴的な症状がないので,実験室診断(RT‐PCRや中和試験)が重要である.

予防

草の茂ったマダニの生息する場所に入る場合には,長袖の衣服及び長ズボンを着用し,サンダルのような肌を露出するようなものは履かないことなど,マダニに咬まれない予防措置を講じる.

検査材料

血清,咽頭拭い液,尿など.

法律

感染症法の四類感染症,三種病原体

(2025年3月更新)

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