狂犬病 (Rabies)
狂犬病予防法:届出義務感染症法:四類感染症家伝法:家畜伝染病
狂犬病予防法:届出義務感染症法:四類感染症家伝法:家畜伝染病
狂犬病ウイルスによる致命率100%の人と動物の共通感染症で世界中に分布し,WHO(世界保健機関)によると年間5万~7万人の死亡者が報告されている.死亡者のほとんどはアジアとアフリカで占められている.
わが国では1732年以降,流行と終息を繰り返してきたが,1950年「狂犬病予防法」の施行により,人では1955年,動物では1958年以降,狂犬病の国内発生はなくなった.しかし,1970年にネパールから帰国した男性のほか,2006年11月にフィリピンから帰国した男性2人が輸入狂犬病のために死亡している. 2013年7月,それまで清浄地域とされていた台湾で,イタチアナグマの狂犬病が流行していることが確認された.
発症動物による咬傷もしくは,唾液の粘膜付着により感染が成立する.通常,人−人感染はない.
伝播動物は犬が主だが,地域によって異なる.アジアでは犬,アフリカでは犬,マングース,ジャッカル,北米ではアライグマ,スカンク,コウモリ,中南米では犬,コウモリ,西欧ではキツネ,コウモリ,東欧ユーラシアではキツネ,犬である.
狂犬病はラブドウイルス科リッサウイルスに属し,現在7つの遺伝子型に分類されるうちの1型に位置づけられている,RNA一本鎖のウイルスで,エンベロープを持ち,80μm×180μmと比較的大型で,砲弾型のウイルスである.
動物種による差異はあまりない.一般に長い潜伏期(20~60日)の後,発熱や不安,興奮などを示す前駆期(2~3日).攻撃性の亢進や下顎麻痺などを示す狂騒期(1~7日).意識低下,呼吸低下などを示す麻痺期(2~3日)を経て呼吸不全で死亡する.一方,激しい神経症状は示さず,麻痺を主徴とする麻痺型狂犬病と分類される病型もある. 犬の場合,麻痺型狂犬病は全体の4分の1程度といわれている.一方,猫の場合はほとんどが狂騒型で,麻痺型は1割程度といわれている.
大体14~60日である.犬では最長半年という報告もある.
わが国では発生していないので,当該動物の輸出入歴,あるいはそのような動物や野生動物との接触歴,ワクチン歴などでのふるいわけが重要である.生前診断は確立していないが,犬の場合,いくつかの基準で振り分けをすることで高い精度で狂犬病を疑うことができるという報告1)がある. 確定診断は死後の脳材料(視床,海馬,橋,延髄,小脳)からウイルス抗原や遺伝子を証明することでおこなう.狂犬病予防法第9条,11条などにより,狂犬病の犬や狂犬病を疑う犬は治療することなく,隔離して観察することが求められている.
引用文献
1) Six Critera for Rabies Diagnosis in Living Dogs J Med Assoc Thai 2005 ; 88(3) : 419-22
発症以前の検査方法はない.発症して死亡した場合,脳材料(視床,海馬,橋,延髄,小脳)よりウイルス抗原や遺伝子を証明する.
イヌジステンパー症,オーエスキー病,ボルナ病,破傷風,リステリア症,ストリキニーネ中毒など.
生後91日齢以降の犬は毎年1回の狂犬病予防接種を受けることが義務付けられている.
狂犬病予防法で規定されている.狂犬病にかかった犬等又はその疑いのある犬等を診断した獣医師又はその犬の所有者に対し保健所長への届出義務ならびにその犬等の隔離義務が課せられている.家畜伝染病予防法では,牛,水牛,馬,めん羊,山羊,豚,鹿,いのししが対象家畜として監視伝染病(家畜伝染病)に指定されている.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所へ届出る.
人の狂犬病も動物と類似する.人は終末宿主であり,人−人感染は通常ない.しかし,臓器移植による感染がこれまでに数例報告されている.
1〜3ヶ月とされている.最長6年という報告もある.
前駆期:発熱,頭痛,倦怠感という感冒様症状を示すほか,不安,興奮,古い咬傷の痛みや痒みなどを示すといわれている(1~4日).
急性神経症状期:強い不安感,1日のうちに意識清明と混濁を繰り返す.飲水の困難と水への恐怖(恐水症),顔に風が当たることを嫌う(恐風症)などの症状を示す.
麻痺期:各種反射が減弱し,意識消失,呼吸不全により死亡する.いったん発症すると4~20日のうちに100%死亡するといわれている.動物と同様,発症初期から麻痺を主徴とする麻痺型狂犬病もある.
流行地への渡航歴,またその地域での動物との接触歴を聴取することは重要である.診断は唾液,髄液,うなじ部の皮膚生検標本から狂犬病ウイルス抗原の証明,もしくは遺伝子の証明による.いったん発症すると有効な治療法はない.しかし,発症前であれば以下の治療が有効である(曝露後発症予防処置).すなわち感染動物に咬まれた場合,できるだけ早く石鹸などで傷口を洗い,抗狂犬病免疫グロブリンを傷口に注射し,その後,組織培養不活化狂犬病ワクチンを0,3,7,14,30(場合によって90)日にそれぞれ投与する.なお,抗狂犬病免疫グロブリンは現時点においてわが国では製造も輸入もしていない.
初回接種日を0として,組織培養不活化狂犬病ワクチンを0,30,210日の3回接種する.
感染症法の四類感染症に定められている.診断した医師は7日以内に最寄りの保健所への届出が義務付けられている.
リッサウイルス属の遺伝子型1以外のウイルスによる狂犬病類似の感染症である.狂犬病類似ウイルスは旧大陸とオーストラリア大陸で発見されているが,報告数は少なく不明な点が多い.
人の狂犬病と類似する.
人の狂犬病と類似し,発症した場合,有効な治療法はない.
狂犬病類似ウイルスのためのワクチンや免疫グロブリンはない.狂犬病ワクチンの有効性はABLで認められるが,ラゴスバット,デューベンヘイグ,EBL1,EBL2で部分交差による予防効果が見られる程度,モコラウイルスに対してはない.
感染症法の四類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.