パスツレラ症(Pasteurellosis)

家伝法:家畜伝染病(家きんコレラ,出血性敗血症)

概要

パスツレラ属菌(主にPasteurella multocida)により,呼吸器感染,皮膚化膿等,多彩な症状を呈する感染症である.

疫学

わが国では,人において,1992年の23例から2001年の325例と10年間で10倍に増加(1997〜2001年の年平均増加率は約40%と著増)を示した.感染の内訳は次の3つに大別できる.1) 呼吸器系の感染:40.9%,2) 動物の咬・掻傷による創傷感染:39.5%,3) その他(膀胱炎,敗血症,髄膜炎,外耳炎,副鼻腔炎,結膜炎等):19.6%.

感染経路

経口感染,経気道感染,経皮感染.

保菌動物

哺乳動物,鳥類の口腔内,腸管内の常在菌.口腔内に犬で12〜55%,猫で60〜90%,猫の20〜25%が爪に保有している.

病原体

パスツレラ属菌は,1.4±0.4×0.4±0.1μmの陰性短桿菌で,10数種ほどが知られている.(Haemophilus influenzaeと血液寒天上のコロニー,グラム染色所見ともに判別がほとんどできない).Pasteurella multocida が主であり,他にP.canisP.stomatisP.haemolyticaP.gallinarumがある.

動物における本病の特徴

症状

犬,猫では一般に無症状である.まれに犬では肺炎 ,猫では肺炎および皮膚膿傷形成が診られる.ウサギではスナッフル(上気道ないし肺炎症状).ラットでは気管支肺炎.マウスでは敗血症.豚では鼻まがり症,肺炎等が見られ,急性では死亡する場合もある.牛,馬では出血性敗血症,肺炎,乳房炎,髄膜脳炎.家きんでは沈鬱,発熱,羽毛逆立,下痢,チアノーゼ,呼吸器症状を呈する.

潜伏期

不明.

診断と治療

病原体確認:グラム染色→顕微鏡観察,培養は依頼すると良い〔検査依頼時に『パスツレラを疑う!(または検査の目的を書く)』と明記する.また,検体を採取した綿棒を保存培地に入れた場合は室温保存する〕.治療には,ペニシリン系,セファロスポリン系などが用いられる.牛,豚の肺炎,ペニシリン・アレルギーのあるウサギのスナッフルは治療困難.

検査法と材料

治療前の膿,血液等の材料を.検査センターの指示通りに保管送付を行う.培養検査が一般的である.

類症鑑別

猫ひっかき病.

検査施設

北里研究所コンパニオンアニマルラボラトリー (KICAL) TEL:048-593-3953.

予防

猫の爪を短く切る.動物の健康を保持する.

法律

家畜伝染病予防法ではP. multocidaに感染した家きんの70%以上が死亡した場合のみ監視伝染病(家畜伝染病)の「家きんコレラ」として取り扱われる.対象動物は鶏,あひる,うずら,七面鳥.また,家畜伝染病の「出血性敗血症」の対象動物は牛,めん羊,山羊,豚,水牛,鹿,いのしし.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所へ届け出る.出血性敗血症は日本には常在しない.

人における本病の特徴

人における本病は特徴的な症状が無い.ただし,皮膚の感染においては,動物の咬・掻傷後,比較的短時間(数時間〜48時間以内)に急激に腫脹,発赤,疼痛が認められる.

吸器系感染:軽い風邪様症状から重篤な肺炎まで様々.基礎疾患(気管拡張症,陳旧性結核等)のある患者が多い.

咬・掻傷感染:四肢,頭部,顔面に多く,通常は受傷30分〜1,2日後に,局所の激しい疼痛,発赤,腫脹で発症し蜂窩炎となる.局所の化膿は20〜40%に,38℃程度の発熱が約20%に認められる.局所の炎症が軽度の場合,付属リンパ節の腫脹があっても,全身感染に進展することは極めて稀.糖尿病,アルコール性肝障害のある患者で敗血症となることがある.死亡例も存在する.

診断と治療

動物と同様.

類症鑑別

猫ひっかき病(リンパ節の腫脹までの期間が異なる).

検査法と材料

動物と同様.

予防

  1. 寝室に動物を入れない.
  2. 動物と濃厚接触をしない.
  3. 動物と食器を共有しない.

法律

特に規制されていない.

(2024年3月更新)

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