非結核性抗酸菌症(Non tuberculous mycobacterial diseases)

感染症法:三類感染症家伝法:届出伝染病(鳥結核病)

概要

非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)は、抗酸菌のうち結核菌群,癩菌,ヨーネ菌を除いたMycobacterium属であり,主に呼吸器に病変を形成する感染症である.

疫学

NTMは,一般に感染性は弱く,頻度は排菌陽性の肺結核患者の約1/5程度である.そのうちM. avium complex(MAC)症によるものが約80%で,残りの多数はM.kansasii症である.NTMは自然環境(水・土壌など)に生息する菌のため,健常者の喀痰などから菌が検出される場合がある.

1969 年,北海道で大規模な豚のNTM症の発生が初めて報告されている.

感染源

土壌,河川水,塵埃,家畜飼育環境中に広く分布しているNTMが感染源で,吸引・嚥下等により気道から侵入して人や家畜が感染する.また、NTMは水回り、水道、浴室のシャワーヘッドなど、ぬめり気のあるところに多く生息し、バイオフィルムを形成している.カメ類などの爬虫類からの感染が報告されている.

動物では、鶏、豚以外に牛,山羊,鳥類,犬,猫,サル,魚類などからも各種のNTMが分離されている.

感染経路

環境で生存しているNTMは,エアロゾルの吸入により、人や家畜が呼吸器感染または経皮感染する。また、NTMに汚染した飲水や食物を介する消化器系からの感染がある.基本的に人から人への感染は見られない.

病原体

特に臨床上問題になっているNTMはM. aviumM. intracellulareからなるM. avium complex(通称MAC)である.

Runyonの分類によると遅発育菌のⅠ,Ⅱ,Ⅲ群と迅速発育菌のⅣ群に分けられる.

動物における本病の特徴

動物のNTM症の流行は豚や鳥類で多発する.特に、 豚のMAC感染症は世界中で見られ、経済的に重要な問題となっている.

近年、鶏結核病は養鶏業以外に、展示動物、動物園の展示動物や渡り鳥などでの発生報告がある.

潜伏期

潜伏期は不明.

症状

無症状で臨床所見に乏しいため,と畜場での検査(腸管膜リンパ節,頸部リンパ節の病変)で発見される.
鳥(MAC症)
元気・食欲不振,体重減少など.肺,肝臓,脾臓,腸管などの結核様結節と腫大が見られる.発症鶏では、特異的な症状はなく、結核病変を持っていても無症状な場合もある.
NTM症の病巣は皮膚やリンパ節に好発するが、明確な臨床症状が認められない.
犬・猫
感染後の経過が慢性であるため、気付かず斃死に至ることがある.しかし、外傷や外科手術部位によるM. fortuitum,M. chelonei, M. smegmatis(日和見抗酸菌)の侵入により、皮下織に慢性化膿性肉芽腫性炎症を起こすネコの症例は多く、難治性で予後は悪い.

診断と治療

病原体の確認(尿の暗視野顕微鏡観察,培養,PCR法)血液生化学検査.病理検査(剖検).ツ反応(牛,山羊の無病巣反応動物).なお,牛,山羊,鳥類,犬,猫,サル類,魚類からも各種のNTMが分離されている.豚では生体時診断は困難なために治療は行われない.

類症鑑別

結核、ヨーネ氏病、肺ガン、真菌症など.

予防

ワクチンはない.鳥型ツベルクリン検査の陽性豚は摘発・淘汰する.豚舎の環境衛生の徹底と改善および飼育者の衛生教育を行う.鳥での予防方法は特にない.

法律

家畜伝染病予防法では「鶏結核病」として届出伝染病(届出伝染病)に指定されている.対象動物は鶏,あひる,七面鳥,うずら.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所に届け出る

人における本病の特徴

近年、ヒトの結核が減少しているのとは対照的に、NTMによる発病者が増加している。とくに,基礎疾患のない中高年の女性の肺MAC症の増加が見られる.また,AIDS患者や白血病患者,臓器移植患者など免疫能が低下している人の日和見感染症としてもMAC症は注目されている.

症状

NTMに特有の症状はなく、軽いことが多く、全く症状がでない場合もある。病気が進行すれば、慢性的な呼吸器症状(咳,喀痰,喀血)や発熱,全身倦怠,体重減少,血沈の亢進,CRPの増加等の所見が見られる.稀にリンパ節・骨・皮膚などに病変が見られる.末期エイズ患者はNTMによる血行性全身感染症が発生する.養殖魚業者等の皮膚感染症の主な原因菌はM.marinumである.中高年女性のMAC症は,初期は無症状で肺に多発性の小結節や気管支拡張が見られるが,突然の血痰,X線写真で発見される.

診断と治療

臨床症状と所見,胸部X線診断,細菌検査,PCR法による結核菌DNAの存在確認.18菌種が迅速に同定できる「DDHマイコバクテリア(DNA:DNAハイブリダイゼーション)」が市販されている.

治療は,新マクロライド系にエタンブトールやリファブチンの併用が行われている.カンサシ症には第1選択剤としてリファンピシン(RFP)で,難治性にはクラリスロマイシン(CAM),エタンブトール(EB),RFPが併用される.なお、NTMは抗結核剤に対しては耐性を持つので使用には注意を要する.

類症鑑別

結核,肺炎,肺ガン,真菌症など.

予防

宿主の免疫力の増強,栄養補給などによる体力・抵抗力の増強に努める.病院や高齢者施設など易感染者が多い施設や浴槽等の除菌を充分に行い,非結核性抗酸菌症患者の発生防止に努める.

法律

特に規制されていない.

(池田 忠生)

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