エムポックス (Monkeypox)

感染症法:四類感染症

概要

エムポックス(サル痘)はアフリカの野生げっ歯類を自然宿主としており,野生のげっ歯類からヒトへ感染し,皮膚病変,更には全身症状を引き起こす(コンゴ盆地型Clade I, 西アフリカ型Clade IIa).しかし,近年,人から人で主に性交渉による感染(西アフリカ型Clade IIb)が世界的に拡大し,2022年7月23日WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言した.2023年5月11日に感染者数が減少したことからWHOにより該当しない旨の宣言があった.国内でも,比較的若い男性に流行が認められている.2023年末現在でも,散発的に発生がある.症状は,発疹,発熱,リンパ節腫脹などが主である.天然痘に対するワクチンがエムポックスの予防に効果がある.テコビリマット等の治療薬が有効である.ヒト-ヒト感染を引き起こしている現在のエムポックスウイルスの致死率は低いが,アフリカには致死率が高い株(約10%)も存在している.アフリカの野生動物での感染は多いが,不顕性感染が多いといわれている.

疫学

エムポックスウイルスClade IとClade IIaによるエムポックスは主にアフリカ中央部から西部にかけて発生している.自然宿主はアフリカに生息するげっ歯類が疑われている.まれに流行地外でも,流行地からの渡航者等に発生した事例がある.2003年にはアメリカで輸入されたアフリカ産のげっ歯類を介して感染が広がった.2022年に人から人へ感染するClade IIbが感染拡大し,世界中から発生が報告されている.

感染経路

エムポックスウイルスClade IとClade IIaの感染経路は,感染動物による咬傷,あるいは感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)との濃厚接触による感染が主である.

Clade IIbを中心とした人から人への感染は,感染した人の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む.),患者との長時間の曝露,患者が使用した寝具等との接触等により感染する.

保菌動物

自然宿主はアフリカのリス属やげっ歯類であると考えられている.サルやウサギ,プレーリードックなども感受性がある.

病原体

エムポックスウイルス(サル痘ウイルス)はポックスウイルス科コルドポックスウイルス亜科オルソポックスウイルス属に属する.ウイルスの形態はレンガ状で,300nmを超える大型である.2本鎖DNAを核酸として有し,エンベロープを有している.同じオルソポックスウイルス属に属する天然痘ウイルス,牛痘ウイルス,ワクシニアウイルスと非常によく似ている.

動物における本病の特徴

症状

動物においては感染してもほとんど症状を示さない.感染実験では一部のげっ歯類や霊長類に致死的感染を引き起こす.野生においては不明な点が多い.患者からペットの犬に感染したという報告もあるが,その詳細は不明である.

潜伏期

不明

診断と治療

動物実験では,テコビリマットが治療に有効であることが示されている.

予防

動物実験では,天然痘ワクチンが有効であることが示されている.

法律

特になし

人における本病の特徴

エムポックスウイルスはCladeにより感染地域,重症度などが異なっている.アフリカのコンゴを中心に動物-ヒト感染を引き起こすClade Iは致死率が高いが,人―人感染を引き起こし,世界中に流行したClade IIbは比較的致死率が低い.地域や感染経路に関する違いを理解することが重要である.

症状

潜伏期は通常7-14日であり,その後,発熱,皮膚や粘膜の発疹,頭痛,悪寒,だるさ,筋肉痛/関節痛,疲労,リンパ節の腫脹が主な症状である.多くの場合,2-4週間で自然治癒する.症状は天然痘に似ているが軽く,致死率は約1%~10%である.しかし,4歳未満の幼児では14.9%という高い致死率が報告されている.妊婦が感染すると,流産や死産を引き起こすことがある.

診断と治療

水疱や膿疱の内容液や蓋,あるいは組織を用いたリアルタイムPCR検査により遺伝子を検出する.他のオルソポックスウイルスや同様の発疹等の症状を呈する水痘などとの鑑別診断を行う.培養細胞を用いたウイルス分離,電子顕微鏡を用いたウイルス粒子の証明,蛍光抗体法による病変部からのウイルス抗原の検出も有効である.

治療は,基本的には対症療法であるが,海外では,特異的治療薬としてテコビリマットが承認されており,我が国においても同薬を用いた特定臨床研究が実施されている.また,天然痘ワクチンが曝露後の発症及び重症化予防に有効という報告がある.

予防

天然痘ワクチン「乾燥細胞培養痘瘡ワクチンLC16」がサル痘の予防として2022年に承認された.流行地では感受性のある動物との接触を避けること,感染者との接触を避けることが重要である.

法律

感染症法の四類感染症に指定されている.

(2024年3月作成)

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