マラリア(Malaria)
感染症法:四類感染症
感染症法:四類感染症
マラリアはヒポクラテスの時代にも存在していた.中世になり Torti により Malaria と名づけられる.“Mal”は悪い,“aria”は空気を意味する.発熱,脾腫,貧血の3つの主症状と血液からのマラリア原虫の証明により確定診断がつく.
蚊などのベクターによって媒介される.種特異性が高いとされていたが,人のマラリア原虫が,サルに感染することが実験で証明された.動物のマラリア原虫は人に感染するケースがあるので人と動物の共通感染症の中に含まれる.現在,日本にはヒトのマラリアは存在しないので,国内での感染発症例の報告はないが,海外渡航歴がある人が,海外でマラリアに感染して日本に帰ってきて発症する症例が年間で 100 人ほど報告されている.動物のマラリアの発生報告は国内でもあるので動物病院内での院内感染には十分注意しなくてはならない.
感染動物を蚊が吸血する → 蚊の体内で増殖 → 新しい宿主へ吸血することにより感染が成立する.
哺乳類,鳥類,爬虫類から原虫がみつかっている.
赤血球内の虫体の大きさはだいたい 2.5~4μm である.種類が多く,鑑別診断はかなり難しい.
人: Plasmodium falciparum(熱帯熱マラリア原虫),Plasmodium vivax(三日熱マラリア原虫),Plasmodium malariae(四日熱マラリア原虫), Plasmodium ovale(卵形マラリア原虫)
サル: Plasmodium knowlesi, Plasmodium cynomolgi, Plasmodium inui, Plasmodium brasilianum,Plasmodium coatneyi, Plasmodium eylesi, Plasmodium schwetzi, Plasmodium reichenowi, Plasmodium gonderi,Plasmodium simium,Plasmodium rodhaini(Plasmodium malariae), Hepatocystis kochi, Hepatocystis Semnopitheci, Hepatocystis taiwanensis
ラット,マウス: Plasmodium berghei
爬虫類: Plasmodium mexicanum, Plasmodium rhadinurum, Plasmodium floridense, Plasmodium lygosoma
鳥類: Plasmodium circumflexum, Plasmodium vaughani, Plasmodium rouxi, Plasmodium nucleophilum,その他
鶏: Plasmodium gallinaceum, Plasmodium juxtanucleare.
動物種によって異なる.鶏は感染すると死亡する.サルは人に順ずる.人の 4 種のマラリアはサルに感染することが実験で明らかになった.
動物種により異なる.
血液塗抹標本を作り,ギムザ染色(pH7.4 のリン酸緩衝液で作製したギムザ液:海老沢の方法)して,赤血球内のマラリア原虫を確認する.本法で,他の赤血球内寄生性の細菌や原虫等の鑑別もできるので,ギムザ液の原液と試薬のリン酸塩は,病院の検査室に常備しておくとよい.遺伝子による診断は早期発見につながる.治療には,クロロキンが有効であるが,クロロキン耐性の原虫も存在する.
バベシア,ピロプラズマ,その他の赤血球内寄生性の細菌や原虫等との鑑別を必要とする.ただし,これらは人獣共通に感染する病原体が多いので,種まで同定できなくとも,発見されしだい院内感染対策を十分にとる必要がある.特にベクターに注意しなくてはならない.
予防はベクターとの接触を避けることである.
感染症法の四類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.
人のマラリアは,ひどくなると死亡するケースがあるので早期発見,早期治療が必要である.特に熱帯熱マラリアは死亡例が多い.他のマラリアは死亡することはないが再発する.サルのマラリアは人に感染するケースがある.
発熱,脾腫,貧血の 3 つの主症状が特徴である.
血液塗抹標本を作り,ギムザ染色して,赤血球内のマラリア原虫を確認する.大量の検体を迅速に調べたい場合は,アクリジン・オレンジ染色による蛍光染色法が用いられる.迅速法で陽性となった検体は,必ず,ギムザ染色で確定診断を行わなくてはならない.遺伝子による診断は早期発見につながる.治療には,クロロキン,メフロキン,スルファドキシン・ピリメタミン,硫酸キニーネなどが使用される.
血液,血液塗抹標本.
蚊による刺咬を避けるため肌を露出しない服装(長袖,長ズボン)を着用し,DEET 製剤(ジエチルトルアミド)を含有している防虫スプレ−(忌避剤)などでの対策を講じる.蚊帳,蚊取り線香は予防につながる.流行地への旅行には予防内服薬の携帯・服用する.国内では,温暖化のため蚊の生息域の北上が報告されているため,水たまりなど,蚊が繁殖しそうな場所をなくし,ボウフラの発生並びに蚊の駆除対策が重要(蚊媒介性疾患の予防)である.戦前から戦後混乱期においては、わが国においてもマラリアの流行(土着マラリア、輸入マラリア)が見られたが,徹底した対策を行うことで撲滅した歴史がある.マラリアを媒介できる蚊を駆除することは予防につながる.
現在,人用に開発されたマラリアのワクチンがあるが,これは人の免疫を高めて防御するものではなく,人を吸血した蚊がマラリアに感染しづらくするといったもので,なかなか理解が得られていない.
感染症法の四類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.