輸入真菌症(Imported Mycoses)

感染症法:四類感染症(コクシジオイデス症)家伝法:届出伝染病(馬:仮性皮疽)

概要

わが国にはない風土病的真菌症で,健常個体でも致死的になる場合が有り,高度病原真菌症とも言われている.コクシジオイデス症,ヒストプラスマ症,パラコクシジオイデス症,マルネッフェイ型ペニシリウム症,ブラストミセス症およびクジラ型パラコクシジオイデス症がある.なお,ヒストプラスマ症は輸入症例と国内症例があり,犬症例は全て国内症例であるとともにクジラ型パラコクシジオイデス症も我が国のイルカで発症が報告されている.

疫学

コクシジオイデス症は南北アメリカ大陸の半乾燥地域.ヒストプラスマ症は世界各国の温帯から熱帯の大河流域.パラコクシジオイデス症は中南米.マルネッフェイ型ペニシリウム症は東南アジア.ブラストミセス症は北米大陸五大湖周辺,アフリカなど,クジラ型パラコクシジオイデス症は世界的に温帯から熱帯に分布する.

感染経路

多くは吸入により感染する.皮膚・粘膜感染もある.

保菌動物

コクシジオイデス症は各種動物,ヒストプラスマ症はコウモリ,ヒバリの糞,パラコクシジオイデス症はアルマジロ,マルネッフェイ型ペニシリウム症はコタケネズミ,ブラストミセス症はヤマアラシ,クジラ型パラコクシジオイデス症は小型鯨類が保菌動物として知られている.

病原体

コクシジオイデス症:Coccidioides immitisC.posadasii

ヒストプラスマ症:Histoplasma capsulatum sensu lato

パラコクシジオイデス症:Paracoccidioides brasiliensisis sensu strictP.lutztiiP.americanaP.restrepiensiP. venezuelensis

マルネッフェイ型ペニシリウム症:Penicillium marneffei

ブラストミセス症:Blastomyces dermatitidis

クジラ型パラコクシジオイデス症:Paracoccidioides brasiliensisおよびParacoccidioides属菌種

いずれもバイオセーフティーレベル3の病原体であるが,クジラ型パラコクシジオイデス症の原因菌は培養不可能とされている.

動物における本病の特徴

症状

皮膚,粘膜,呼吸器,泌尿器,神経および原因不明の発熱をともなった全身症状を呈し,骨,生殖器も侵される.ヒストプラスマ症とマルネッフェイ型ペニシリウム症は,肝,脾の腫脹を特徴とする.ヒストプラスマ症では下痢等の消化器症状も知られている.パラコクシジオイデス症はリンパ節の腫脹が著明な場合もある.一方,クジラ型パラコクシジオイデス症はクジラ型パラコクシジオイデス症は掻痒感や疼痛を伴った難治性ケロイド状慢性皮膚肉芽種を特徴とする.

潜伏期

数週間〜数ヶ月,多くとも数年.数十年(パラコクシジオイデス症)

診断と治療

病原体の確認(血液,喀痰,尿などからの分離培養,PCR法).ただし,Coccidioides spp.の分離,培養は実験室内感染死亡例が多数報告されているので,一般施設で行ってはならない.治療には抗真菌薬の経口および全身投与する.

類症鑑別

ウイルス感染,細菌感染,免疫疾患,腫瘍.

検査法と材料

胸部X線,CT,超音波検査により多くの情報が得られる.

検査血清によるIDテストのキットが市販されているが,日本で発症したヒストプラスマ症の検出感度は悪い.尿沈渣,血液塗抹,膿の塗抹,生検組織による病理診断などから菌体を証明する.コクシジオイデス症は球状体,ヒストプラスマ症は細胞内寄生性の1〜4μm の酵母様細胞,パラコクシジオイデス症は操舵輪状の多極性出芽を伴った大型酵母細胞(直径5〜20μm以上),マルネッフェイ型ペニシリウム症は細胞内寄生性の円筒型酵母様細胞(1〜2 x 2-3μm程度),ブラストミセス症は広い基底より単出芽した大型酵母様細胞(直径8〜15μm程度),クジラ型パラコクシジオイデス症は連珠状の大型球形酵母細胞や多極性出芽を伴った大型酵母細胞(直径5〜20μm程度)を特徴とする.

生検組織,膿,喀痰,血液などを用いたPCR診断も可能である. 原因菌は実験室内で培養すると全て菌糸形発育をするため,寄生型と著しく異なる.また,集落も多様である.

分離菌が生育した場合,輸入真菌症原因菌が想定されるので,専門機関に同定を依頼する.

予防

流行地への旅行・滞在に動物を伴わない.流行地からの動物を輸入しない.

法律

コクシジオイデス症は感染症法の四類感染症に定められているが, 動物における届出義務はない.馬でヒストプラスマ症と診断された場合,家畜伝染病予防法の届出伝染病の一つ仮性皮疽に指定されている.

人における本病の特徴

症状

軽度な肺炎症状から全身症状に至るまで免疫状態により異なる.

診断と治療

RT-PCR法血清学的診断,病理組織学的診断,培養,遺伝子検出などがある.流行地への渡航歴を受診時に告げることが早期診断につながる.

予防

健常人でも感染し,発見が遅れると死に至る場合があるので,流行地へ渡航した場合,強風時の外出を避ける.むやみに土壌に触れたり,洞窟に入ることなどは避ける.動物および飼育環境(飼育プール水など)に触れたら必ず手洗いをする.

法律

コクシジオイデス症は感染症法の四類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

(佐野 文子)

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