ヒストプラズマ症 (Histplasomosis)

家伝法:届出伝染病(仮性皮疽)

概要

やや透明から白色菌糸型のHistoplasma capsulatumによる感染症で,呼吸器,消化器,リンパ節,皮膚,眼,中枢神経に病巣を形成する.世界中に分布する.特に,中米からミシシッピー川流域,熱帯,亜熱帯地域で発生が多い.わが国には常在しないと考えられていたが,近年,人および犬の国内感染事例が確認されている.飛散した塵埃中の菌体を吸入して呼吸器感染をすると考えられる.感染すると呼吸器,消化器,リンパ節,皮膚,眼,中枢神経に病巣を形成する.

疫学

国内における人,犬,猫などの自然感染例は,ほとんどなく,主に海外からの輸入渡航者(動物)からの発症が主である.ただし近年,人および犬の国内感染事例が確認されている.主に熱帯・亜熱帯地域に分布するが,特に中米からミシシッピー川流域で発生が多い.宿主は人,牛,馬,犬,猫,羊,豚,兎,ラット,猿,鶏が報告されている.

感染経路

流行地においては,鶏舎,鶏舎付近の土壌,肥料として用いた鶏糞,鳥類の排泄物で汚染された土壌に生息する.特にコウモリの糞便は感染源として重要である.そのため鳥類,コウモリなどの糞便中に存在する分生子を吸入することにより経気道的に感染すると考えられる.

保菌動物

コウモリ

病原体

Histoplasma属は,明調菌糸形のアレウリオ(粉状)型分生子を産生して増殖する.大分生子と小分生子とがあり,いずれも単細胞性である.前者は壁が厚く,大型で球状を呈し,その表面には結節状ないし棘状の突起が認められる.また後者は小さく梨状を呈し,表面は.棘状ないし平滑である.また二形性菌で,サブローブドウ糖寒天培地上で25℃で培養すると,菌糸形で発育し,ブレインハートインフュージョン培地およびサブローブドウ糖寒天培地上で37℃で培養すると,酵母様生育を示す.H. capsulatumには,H. capsulatum var. capsulatumH. capsulatum var. duboisiiH. capsulatum var. farciminosum(馬の仮性皮疽の原因菌:家畜届出伝染病)の3亜種が知られている.

動物における本病の特徴

症状

犬の多くは5歳未満.猫では7歳未満が多い.米国では運動犬,狩猟犬が多く,性差は認められないとする報告がある.猫では品種の差が認められない.

犬,猫の症状としては,発熱,呼吸器症状,消化器症状,中枢神経が認められる.感染した犬の多くは,消化器症状が多い.水様から血様下痢,しぶり,出血,粘液が糞便中に認められる.消化管の出血または腸炎による蛋白質の漏出が起きる.全身性のヒストプラズマ症では,肝臓,脾臓,リンパ節,骨髄,眼,皮膚,中枢神経まで進行することもある.内蔵のリンパ節腫大,肝膿瘍,黄疸,腹水が認められる場合もある.

潜伏期

菌体を吸入後,肺病変部の周囲や局所のリンパ節に数カ月から数年寄生し,宿主免疫状態によって体内に拡散する.

診断と治療

肺病変は,他の全身性の真菌症と似ている.その様な病変は,転移した腫瘍と犬ジステンパー症と鑑別しなくてはならない.リンパ節の腫大は,リンパ肉腫,他の全身性の真菌症,局所の細菌感染でも認められると考えられる.皮膚病変は一般的な化膿または他の細菌感染症と鑑別するべきである.骨病変では,特発性または転移した腫瘍および細菌性の骨髄炎と似ている.

血液検査では,中程度の再生不良性貧血および左方移動を伴った好中球増多症,リンパ球減少,単球増多症,血小板の減少が報告されているが,本疾患に特異的ではない.

X線検査では,肺野の間質の浸潤像と骨融解像が認められる場合がある.

病原診断としては,肝臓,肺,脾臓などの細網内皮系の組織を中心に,直径2〜4μmの酵母細胞を貪食した多数の組織球からなる肉芽腫性炎症が認められる.その他,喀痰,排膿液中の菌体をギムザまたはライト染色して確認するか,培養によって菌を証明する.

血清診断としては,ヒストプラスミンによる皮内反応を行う.

本菌がバイオセーフティーレベル3(BSL3)であるため,培養検査は,感染性の危険性があるため,特殊な検査機関でしか行えない.

治療にはアムホテリシンB ,アゾール系抗真菌薬を使用する.予後不良な場合が多い.

予防

流行地域での汚染土壌およびコオモリの生息する洞窟なでへの吸入暴露をさける.本症は人獣共通感染症なので,罹患動物の取り扱いには十分注意する.

法律

Histoplasma capsulatum var. farciminosumは馬の仮性皮疽の原因菌で家畜届出伝染病に指定されている

人における本病の特徴

動物の場合と同様である.

症状

動物の場合と同様である.

全身症状として,発熱,衰弱,元気消失,慢性の発咳,喀血,貧血,黄疸,腹水等の症状が認められる.肺炎による発咳,呼吸困難が認められる.肝臓,脾臓,リンパ節,骨髄,眼,皮膚,中枢神経まで進行することもある.消化器症状として水様から血様下痢,しぶり,出血,粘液が糞便中に認められる.皮膚型として,皮膚のびらん,潰瘍,結節が認められる.

診断と治療

動物の場合と同様である.

予防

動物の場合と同様である.

法律

なし

(2025年3月制作)

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