ジアルジア症(Giardiasis)

概要

ジアルジア症はGiardia intestinalis (lamblia) 原虫の感染によって起こる.下痢を主徴とする原虫性疾患である.

疫学

ジアルジア原虫を含む糞便に汚染された地域で発生する.主に水系感染が多い.汚染された水を飲んだり汚染した糞便に接触することで発症する.Monis PTらの報告によると,G.intestinalisの感染率は地域により異なるが,人1.2~32%, 犬1.6~53%, 猫0.6~80%, 羊7~35.6%, 牛10.3~27.7%, 豚3%, ラット14.7%, ビーバー9.2~18%, マスクラット36.6~100%, ハタネズミ33~98.8%である.

感染経路

汚染された糞便を排泄 → 汚染された水 →人や動物がこれら汚染した水を飲むことによって感染する.人から人への感染も確認されている(プールでの感染).犬から人への感染例,フェレットから人への感染例も報告されていることから,手洗いや消毒等の十分な感染予防対策を実施しなくてはならない.

保菌動物

飼哺乳類,鳥類など.

病原体

遺伝子診断でGiardia intestinalis (lamblia)に一時的に統一されたが,G.intestinalis (人, 犬, 猫, 家畜, 野生哺乳類), G.muris (ネズミ類), G.agilis (両生類), G.psittaci (インコ), G.ardeae (サギ), G.microti (マスクラット, ハタネズミ)の6つのタイプに分類されている.分類に関してはGroup1~3, GroupⅠ~Ⅳ, Assemblage A-Ⅰ・A-Ⅱ~G, PolishとBelgianに2分類に分ける方法と様々な物が存在している.その生活史は栄養体と嚢子よりなる.栄養体の大きさは,6~10×10~15μm.形状は,洋ナシ状の形をしており,2個の核と4対の鞭毛と大きな吸盤を有している.嚢子の大きさは,5~8×8~12μm.形状は,カプセル状,ラグビーボール状で4核となり,軸子,鞭毛をもち,外界で長期間(水中では3ヶ月以上)感染性を有している.

動物における本病の特徴

症状

動物種を問わず,下痢の症状がでる.乳酸菌が存在すると腸炎が悪化する.特に幼獣は重篤な症状になることがしばしばある.

潜伏期

物種により若干異なるが,ほぼ,1~2週間くらいである.

診断と治療

糞便の塗抹標本を作り,ギムザ染色をして,糞便中のジアルジア原虫の栄養体か嚢子を探す.直接法では,嚢子は確認しやすいが,栄養体を見落とすケースがあるので,ギムザ染色で診断をすることを勧める.慢性の個体で,糞便が正常便に近い場合は,集嚢子法を実施する.ELISA法や蛍光抗体法も開発されており,キットによる迅速診断が可能となったが,抗体は高価である.遺伝子による診断は早期発見につながる.形態のみで確定診断が可能な原虫であるので,ギムザ液の原液は病院の検査室に常備しておくべきである.治療にはメトロニダゾールが有効である.

類症鑑別

酵母と嚢子の形態が非常に似ているので注意をしなくてはいけない.嚢子の特徴であるが,染色が良好であれば,内部に核や鞭毛を確認できる.また,いくつか嚢子を見ていくと判るが,どちらか半分に細胞内容が寄っている.そのために,嚢子だけでも診断はつけやすい.ただし,酵母でも同様の形状を示す菌がいることを忘れてはならない.栄養体に関しては,個性的な形状をしているので,ヘキサミタ原虫の栄養体との鑑別ができる.

予防

集団多頭飼育の動物に多いので,集団から感染個体を迅速にみつけて隔離することである.餌や水,糞便や尿の扱いには十分注意をする.畜舎の衛生を保つ必要がある.

法律

感染症法の五類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.

人における本病の特徴

人のジアルジア症は,検査センターでの発見が遅れるケースがある.海外渡航歴のある下痢の患者においては細菌感染を疑うことは大切なことであるので,必ず,ギムザ染色も実施すべきである.早期発見,早期治療が慢性への移行を食い止める唯一の方法である.動物からの感染も報告されており,犬から人に感染した例もある.

症状

下痢,腹痛,食欲不振,悪心.胆管に寄生した場合は,発熱,肝腫大,肝機能障害,黄疸の症状があらわれる.

診断と治療

糞便や胆汁の塗抹標本を作り,ギムザ染色をして,ジアルジア原虫を確認する.迅速に検査する場合はELISA法や蛍光抗体法が用いられる.遺伝子による診断は早期発見につながる.治療には,メトロニダゾールの経口投与.

検査材料

糞便,胆汁.

予防

ワクチンはない.国内では海外帰国者の発生が多いため,旅行先での不衛生なレストランなどでの生水や生野菜,未加熱などの食事は避ける.また,飲料水は煮沸してから飲む.下水で汚染された海からの海産物には要注意.二次感染防止のため,下痢症患者の排泄物や汚染された衣類などの取り扱いを注意し,接触時にはゴム手袋を着用し,事後の手洗いを励行する.塩素消毒に抵抗力を持つため,特にAIDS患者や免疫機能低下者は,飲水,飲食には注意する.家畜や犬,猫の保有率が高いため,飼い主は環境衛生管理を充分に行い,動物との接触後には必ず手洗いを励行する.

法律

感染症法の五類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

(渡辺 隆之)

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