腸管出血性大腸菌感染症(Enterohemorrhagic E. coli infection;EHEC)

感染症法:三類感染症

概要

ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌( Enterohemorrhagic E. coli;EHEC )の感染により,激しい出血性大腸炎による下痢を主徴とする感染力の強い腸管感染症である.公衆衛生上,世界的に重要な感染症である.

疫学

1982年,米国(ミシガン州,オレゴン州)で,ハンバーガーによるEHEC-O157による集団食中毒発生が世界で初めて報告された.わが国では,1990年に埼玉県の幼稚園で,井戸水汚染による集団発生以来,最近では,感染症法に基づく報告件数が毎年4,000前後の発生が報告されている.本症は,6月〜10月の気温の高い季節に多発し,年齢的には小児が全体の40%程を占める.また,レストランチェーン店,老人施設,幼稚園等の発生が見られる.

図

感染経路

家畜の糞便で汚染された肉製品,野菜類や井戸水などが感染源となり経口感染する.また,保菌動物との接触や入浴・プールなどの水を介して感染する場合もある.本菌は感染力が強く,100個程度で感染するので家族や幼稚園などでの二次感染が起こりやすい.

保菌動物

牛,めん羊,鹿などの反芻動物の糞便中に見られ,鳥類の腸管内にも生息している.特に牛の腸管や糞便からの分離が多く報告されており,飼育牛のEHEC O157の汚染率は10数%,保菌率5.6%である.豚は潜在的に菌を保有している.また,鶏,猫,犬,馬,野鳥などからも分離されている.

病原体

一般に大腸菌は病原性を持たないが,一部の大腸菌は特有の病原因子を保有し,下痢を主徴とする消化管感染症を引き起こす. このような大腸菌は下痢病原性大腸菌と呼ばれ,病原性によって5型に分けられる.

EHECはベロ毒素産生性大腸菌(Verotoxin producing E. coli ; VTEC )とも,志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin producing E. coli ; STEC )とも呼ばれる

動物における本病の特徴

大腸菌は家畜や人の腸内に存在し,そのほとんどは無害である.ハトやカラスからも本菌が分離されている.犬,猫から下痢病原性大腸菌が分離されているがEHECの検出率は低い.豚の下痢はETEC及び EPECが起因菌として分離される. 

症状

動物におけるEHECでの重要なことは,牛,羊,山羊などの家畜に感染しても,通常は無症状である.しかし,幼獣では下痢を呈することがある.犬・猫の症状は,多くは無症状だが,場合によっては嘔吐,下痢,腹痛,食欲不振,発熱等の症状がみられることもある.

潜伏期

不明

診断と治療

糞便からのEHECの分離,そして生化学的性状の同定,血清型別試験とベロ毒素確認試験を行い判定する.毒素産生性試験は,酵素抗体法およびPCR法による遺伝子検査が行われる.

下痢に対しては対処療法を行う.整腸効果を発揮する乳酸菌などの投与は効果がある.抗菌薬の投与は注意する.

類症鑑別

サルモネラ,カンピロバクター,赤痢菌,腸炎ビブリオなどの腸管感染症.

予防

農場における家畜の衛生的な飼育管理を徹底し,畜舎の消毒・清掃などの衛生管理に努める.と畜場での処理工程における衛生管理を遵守し,その後の加工・流通・消費の各段階におけて衛生管理を徹底する.

法律

感染症法の三類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.

人における本病の特徴

集団事例の報告は減ったものの,散発事例における患者数は漸増している.

最近,牧場の牛や学校で飼育している羊など「ふれあい体験(牛の搾乳や給餌などの体験)」から感染した事例の報告がある.

症状

常無症状患者も見られるが,下痢,血便,激しい腹痛,発熱などの出血性大腸炎を起こす.有症者の10%程度が発症の数日から2週間以内に, HUSまたは脳炎などの重症な合併症を発症する.乳幼児のHUS 発症は高い.

潜伏期

潜伏期は通常2〜7日.

診断と治療

糞便からの病原体分離および生化学的性状の同定,血清型とベロ毒素の検出.毒素産生性試験は,酵素抗体法およびPCR法による遺伝子検査を行う.O157,O26,O111などの O群については,分離培地が市販されている.

治療は電解質や水分の補給などが主である.止痢剤は使用しない.抗菌剤投与に際しては慎重を要する.なお,抗菌薬を早期(発症3日以内)に使うとHUSの発症率を下げる可能性がある.

抗菌剤を使用する場合は,小児ではホスホマイシン,ノルフロキサシン,カナマイシンなど,成人ではニューキノロン,ホスホマイシンなどが用いられる.

類症鑑別

カンピロバクター腸炎,非チフス性サルモネラ腸炎,腸管出血性大腸菌腸炎,コレラなどの細菌性腸炎やランブル鞭毛虫症(ジアルジア症),アメーバ赤痢などの原虫疾患との鑑別が必要である.

予防

食中毒の予防の基本を守ることが大切.食用肉の生食を避け,特にハンバーグは内部まで十分に加熱する.速乾性擦式アルコールなどの消毒薬は大腸菌に対して有効である.

法律

感染症法の三類感染症に指定されており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.食中毒が疑われる場合は,食品衛生法により直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない.

(池田 忠生)

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