皮膚および皮膚に付属した被毛や爪などの角化した組織に侵入生息する明調(白,茶,黄など)な糸状菌群を呼称する.皮膚糸状菌は,人,犬,猫,ウサギ,齧歯類を含めた哺乳類,鳥類,爬虫類などにも感染する.主な症状は皮膚の脱毛,紅斑,丘疹,水疱,膿疱,痂皮,落屑などの皮疹を主徴とする.稀に真皮内まで感染が進み蜂窩織炎や皮下結節(肉芽腫病変)などを形成する場合もある.人獣共通感染症の原因となり,罹患動物から直接・間接感染して人にも体部白癬,頭部白癬を引き起こす.診断は,罹患部の落屑や毛根部の直接鏡検や培養検査などで診断する.治療は,抗真菌薬の内服を行う.
世界中の動物に発症している.罹患動物および保菌動物からの接触感染.また土壌,人家および動物の飼育小屋の菌に汚染した塵埃などからの間接感染が考えられる.
発症は,若齢の動物や多頭飼育の場合に多いが,罹患動物や被毛に腐生(保菌動物)した動物から健康な動物へも感染する.
罹患動物および保菌動物からの接触感染.また,土壌,人家および動物の飼育小屋の塵埃等や,汚染した用器具によって感染する間接感染例もある.
猫および犬で感染後,被毛部にだけ感染性の菌体が腐生している場合もある.
皮膚および皮膚に付属した被毛や爪などの角化した組織に侵入生息する明調(白,茶,黄など)な糸状菌群を呼称する.皮膚糸状菌は,Epidermophyton,Microsporum,Nanizzia, Trichophyton, Arthroderma, Leptophyton, Paraphytonの7属からなり,約50種類が知られている.そのうち人や動物に病原性のあるものは,前4属に含まれる.国内において小動物の皮膚に感染する菌は,主に約8菌種で,人獣共通感染症の原因となる.
本邦では主に原因菌として,犬への感染の約70%が,Microsporum canisで,Nannizia gypsea(旧名Microsporum gypseum)およびN. incurvata(旧名M. gypseum)が20%,Trichophyton mentagrophytesによるものが,約10%と言われている.きわめて稀にT. rubrumの感染が報告されている.猫への感染の約90%以上がM. canisであるが,皮膚に感染せずに被毛にだけ生息している例も少なくない.その場合は,汚染した被毛が他の動物や人への感染源となる.その他Nannizia gypsea,N. incurvataおよびT. mentagrophytesの感染が報告されている.ウサギおよび齧歯類においては,T. mentagrophytes,T. benhamiaeの感染が多い.
Microsporum canisは,サブローブドウ糖寒天培地上集落は最初白色で薄く,明るい黄色の色素を産生するが,1~2週間後は,表面は淡黄褐色の粉末状ないし綿状となる(図1).
大分生子は紡錘形(60~80µm×15~25µm)で,壁は厚く,粗造で,隔壁によって数室に分けられている(図2).また,小分生子も認められる.本菌が感染した被毛は,ウッド灯下で蛍光を発するのが特徴である.
Nannizia gypseaおよびN. incurvataは,サブローブドウ糖寒天培地上集落の表面は扁平で,辺縁部は白色短絨毛性を呈するが表面全体は粉末状を呈する(図3).多数の大分生子が認められ,形は樽型(45~50µm×10~13µm)で,壁は薄く,表面に棘がある(図4).また隔壁によって3~7室に分けられている.小分生子は単細胞,棍棒状を呈し,菌糸に側生している.本菌は,通常土壌中に生息し,特に動物の生活と関係の深い土壌中から効率に分離される.そのため,罹患動物から直接人へ感染することはほとんどないと考えられる.
Trichophyton mentagrophytesおよびT. benhamiaeはサブローブドウ糖寒天培地上集落では株によってさまざまで,扁平で顆粒状粉末集落,隆起と皺壁がある絨毛性ないし短絨毛性のもの,さらに主として扁平な絨毛性のものがある(図5).また産生色素も黄色,赤色,褐色と異なる.多数の大分生子(図6)が認められる株もあれば,ほとんど認められない株もある.その他,らせん菌糸等も認められる.愛玩動物として飼育しているウサギ,げっ歯類から人への感染報告が増加している.
皮膚の脱毛,紅斑,水疱,痂皮,落屑,爪の変色や変形等が認められる(図7).ときには皮下の肉芽腫病変を形成することもある.皮膚の炎症を伴うため,鑑別疾患として膿皮症,ニキビダニ症,疥癬,アトピー性皮膚炎,皮膚型リンパ腫などが挙げられるが,あまり痒みを伴わない場合が多い.
不明
動物の皮膚糸状菌症は,被毛に覆われていて病巣の範囲が分かりにくいため,抗真菌薬の内服が基本である.イトラコナゾールまたは塩酸テルビナフィンを内服させる.
抗真菌薬の外用は,若齢動物,肝疾患などの基礎疾患を有するなど抗真菌薬が使用できない理由が存在し,耳端や指端,体幹の一部など感染が浅く限局された病巣にのみ使用可能である.広範囲の皮膚病変の治療に対しては,不適である.
抗真菌薬含有のシャンプー洗浄は,抗真菌薬の内服と併用でより一層の治療効果と,感染被毛および落屑の環境への汚染防除となる.また皮膚病変は認められないが,被毛に腐生して感染源となっている場合は,抗真菌薬の内服を処方する前に,ウッド灯で発光している被毛を刈り取った後にシャンプーで洗浄して物理的に菌体を除去すると良い.
有効なワクチンは存在しない.罹患動物を触ったあとは手洗いを行う.汚染物の洗浄・消毒を行う.汚染物の探知には,培養検査が有効である.
なし
人の間で流行している足白癬と異なり,動物由来の皮膚糸状菌症は,炎症が強い皮膚炎を引き起こす.
動物と接触しやすい,首,顔,腕,頭部などの比較的炎症の強い体部白癬や頭部白癬を発症しやすい.ひどくなると,頭部のケルスス禿瘡など真皮の化膿性炎症をひき起こすことがある.
稟告上,動物との接触歴が重要である.病巣の位置や範囲によって,抗真菌薬の内服または外用を行う.
動物の場合と同様である.
なし
(2025年3月制作)