クリプトスポリジウム症(Cryptosporidiosis)
感染症法:五類感染
感染症法:五類感染
クリプトスポリジウム症は消化管寄生原虫Cryptosporidiumの経口感染による原虫性下痢症である.
従来,クリプトスポリジウム(Cryptosporidium )は牛,豚,犬,猫,ネズミなどの腸管寄生原虫として知られてきたものであり,人の感染は1976年に初報告され,現在では世界中で確認されている.わが国では,1994年に神奈川県平塚市の雑居ビルで460人余の患者が発生し,1996年には埼玉県越生町で町営水道水を汚染源とする8,800人の集団感染が発生した.本症に関しては散発例よりもむしろ水道水や食品を介した集団発生が重要となる.
わが国におけるクリプトスポリジウム症発生の内訳は,水道水での集団発生,食品による散発発生が見られる.また,海外からの帰国者,免疫不全患者等にみられる.
オーシストの経口感染.
牛,豚,犬,猫,ネズミなどがある.
Cryptosporidiumは胞子虫類に属する偏性細胞寄生性原虫で,小腸上皮細胞に虫嚢を形成し,無性生殖により増殖した後,有性生殖期に移行し,オーシストが形成されて便とともに体外に排出される.
動物により症状は異なる.成獣では,軽症か無症状が多く,幼獣または免疫不全状態では,激しい下痢を呈することがあり,時に致死的となる.
牛,めん羊,山羊,馬では症状は様々で,主に下痢,食欲不振等を呈する.豚,猫では,ほとんど無症状.子犬の下痢症の報告もある.サル類(実験施設内集団発生)では,下痢,脱水,体重減少など.鶏では,呼吸器症状,腸炎を呈する.
4〜7日.
糞便の直接鏡検もしくは遠心沈殿法やショ糖浮遊法による集オーシストによるオーシストの検出.有効な治療薬が無いため対症療法が主となる.
ワクチンはない.有効な消毒薬無し,感染した動物の隔離,罹患動物を飼育した動物舎は徹底的に洗浄,乾燥させる.
感染症法の五類感染症に定められているが,動物における届出義務はない
健常者では,下痢,腹痛,軽度の発熱,嘔吐,倦怠感等で,自然治癒する.原因微生物が検出されない旅行者の下痢症,あるいは既知の腸管系病原体を検出した症例であっても不可解な腹部症状が持続する場合には,ジアルジア症とともに本症を疑う.また,集団下痢症が発生した際に通常の病原体が検出されない場合には,本症の可能性を念頭において検査を進める必要がある.人での感染実験では10〜130個程度の摂取で感染が成立すると言われている.
4〜10日.
基本的に動物と同様.遠心沈殿法やショ糖浮遊法により集オーシストを行い,蛍光抗体法,抗酸染色,ネガティブ染色などの染色標本を作製することが望まれる.蛍光抗体染色がもっとも感度が良い検査法であるが,検査設備,検査精度等の理由から,ショ糖浮遊法による直接鏡検法が最適と考えられる.ただし,検査施術者との目合わせが必要である.有効な治療薬はない.なお,脱水症状には補液による対症療法を行う.免疫不全患者にはパロモマイシン投与の効果が認められる.
ジアルジア症.
動物に接触した後は手をよく洗う.便に接触するような性行為を避ける.衛生状態の悪い地域では安全な飲料水を飲み,食べ物をよく洗うか加熱調理する.抵抗力の弱い免疫不全患者は感染率が高いので特に注意を要する.
感染症法の五類感染症(全数把握疾患)に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.食中毒が疑われる場合は24時間以内に最寄りの保健所に届け出なければならない.