クリプトコックス症 (Cryptococcosis)

感染症法:播種性クリプトコックス症は五類感染症

概要

クリプトコックス症を引き起こす病原酵母として重要なのは,Cryptococcus neoformans, C. deneoformans, C. gattiiの3種である.自然界および健康な犬と猫の鼻腔内に数%常在が確認されている.感染か空気中に飛散している酵母の吸入感染および宿主の免疫状態によって日和見感染すると考えられる.国内では主に人と猫に限られている.上部気道感染(鼻腔炎),気管支炎,肺炎,皮膚炎が多い.菌体は,肺,中枢神経,目,リンパ節,皮膚,頭部およびその他の組織へ拡散し,病変を形成する.

確定診断は,病巣部からの莢膜を有する多数の酵母の検出である.治療は,アゾール系抗真菌薬の投与を行う.

疫学

クリプトコックスは,世界中の湿潤で温暖な気候の地域に偏在する.土壌,樹木,ハトの糞等に存在し,散発的に発生する.近年,北米の西海岸地域で感染性の強いC. gattiiによる健康な人や動物の感染事例が増加している.わが国でも発症に注意が必要である.

健康な犬および猫の鼻腔内から本菌が数%の率で分離された報告がある.長期のステロイド投与,抗癌剤や免疫抑制剤投与時には発症しやすい.人,犬,猫,牛,馬,豚等が感染する.鳥類は体温が哺乳類に比べて高いため感染しないと考えられていたが,最近では鳥類の感染報告がある.

感染経路

国内動物では猫の発症例が,ほとんどである.主な感染経路は塵埃と共に菌が気道に吸引される呼吸器感染から皮膚へ播種する場合や,受傷による経皮感染も報告されている.

保菌動物

健康な猫の鼻腔内から数%の率で分離された報告があるため,老齢,長期のステロイド投与,抗癌剤や免疫抑制剤投与による日和見感染症の場合も多い.動物が健康であれば,常在していてもごく微量であり,接触した人(飼い主など)へ感染した報告はない.

病原体

Cryptococcus属には現在約35種の菌が知られているが,Cryptococcus neoformans, C. deneoformans, C. gattiiの3種である.円形,卵円形,楕円形の酵母で多極性に出芽増殖する.

サブロー・ブドウ糖寒天培地上に37℃で培養すると,集落は表面平滑,湿潤性,粘質,始め白色で後にクリーム色,黄色,オレンジ色などになる.また,ヒマワリ培地およびニガーシード培地で培養すると,メラニンを産生するため,褐色の集落になるのが特徴である.菌の形態は,球形から卵形,3.5〜8μm,薄壁で粘着性多糖体の莢膜に包まれている.そのため本菌を水で約2倍に希釈した墨汁に懸濁して,顕微鏡下で観察すると,菌体周囲に莢膜が認められる(図1).

図

図1

拡大

他の酵母との迅速同定法としては,37℃で旺盛に発育,ウレアーゼの産生,メラニン産生(フェノールオキシダーゼ陽性),莢膜産生,炭素源資化性,硝酸塩を同化しない,などの生理的性質によってクリプトコックス属と同定する.生化学性状を用いた同定キットも市販されている.

また,リボゾーム領域や莢膜遺伝子(CAP59)解析によって,さらにCryptococcus neoformans, C. deneoformans, C. gattiiおよび他のクリプトコックスに鑑別されるが,現在では上記3種はさらに多数の遺伝子型に分けられている.

最近では,質量分析法(MALDI-TOF MS)による同定も行われている.

動物における本病の特徴

症状

猫では上部呼吸器症状が主で,鼻汁排出(片側,両側),くしゃみ,鼻梁部の堅い腫脹,鼻腔内の腫瘤病変(図2)が認められる.髄膜炎や脳脊髄炎へ拡大する場合も多く,沈鬱,痴呆,発作,運動失調,後駆麻痺なども認められる.また眼病変が播種性の疾患に伴って起こり,瞳孔散大(図2),脈絡網膜炎(図3),視神経炎などが認められる.皮膚の紅斑,びらん,潰瘍,腫瘤,体表リンパ節の腫大が認められる(図4).

牛では乳房炎,乳腺炎,内臓や気道の肉芽腫性結節が見られる.

クリプトコックスは,産生した莢膜によって宿主の貪食細胞による殺菌,消化作用に対して抵抗性が強い.そのため,感染部位で菌体を貪食した免疫細胞が,生きた菌体を様々な組織へ運搬してしまうため,播種しやすいと考えられている.特に中枢神経系が侵された場合は,重篤で治療困難になりやすい.

図

図2

拡大
図

図3

拡大
図

図4

拡大

潜伏期

鼻腔内に長期常在することから,老齢化,免疫抑制剤投与による免疫不全で発症する.

診断と治療

直接鏡検…病変部位の生検材料や浸出液,膿汁,喀痰等の墨汁標本を作製して直接鏡検し,酵母様の菌体周囲の莢膜産生を検出する(図1, 5).

抗原検査…血液,髄液,尿中に存在する,菌体成分である莢膜中の多糖類抗原を検出するラテックス凝集反応キットが有用であるが,局所感染の場合には陰性結果となることもある.

分離培養…サブローブドウ糖寒天培地等を用いて25℃と37℃で行う.特に,ヒマワリ培地およびニガーシード培地で培養するとメラニンを産生して集落が褐色になるため,分離が容易である.

病理組織学的検査…気道,肺,皮膚,眼,リンパ節,腎臓,脾臓等に肉芽腫性病変が見られる.病巣内では厚い莢膜を有する菌体が集塊を形成している(図6).

遺伝子診断…本菌の遺伝子を特異的に検出するPCR法を用いた迅速検出法が報告されている.

図

図5

拡大
図

図6

拡大

クリプトコックス症の治療は,病巣が限局していることが少ないため,アゾール系抗真菌剤による内科的治療が一般的である.以下おもにネコのクリプトコックス症の治療薬について解説する.

  • フルコナゾール
    皮膚型や鼻部のクリプトコックス症においては,効果的な薬剤である.また水溶性のため,中枢神経,眼,尿中への移行も良い.ただし本剤に対して耐性株が分離される時があるため,使用して効果が少ない場合は他の薬剤に切り替える.
    皮膚または鼻腔内クリプトコックス症5~10 mg/kg,1日1回,内服.
    中枢神経,眼房内,多臓器にわたる全身性クリプトコックス症50~100mg,1日1回,静注.
  • イトラコナゾール
    クリプトコックスに対する抗菌活性は,フルコナゾールよりも強く,副作用の発現が少ない特徴がある.ただし脂溶性であるため中枢神経への移行が悪いなどの欠点がある.また本剤は尿中移行しないため,腎臓や膀胱炎まで播種した場合はフルコナゾールを使用する.
    皮膚または鼻腔内クリプトコックス症5~10 mg/kg,1日1回,内服.
    中枢神経,眼房内,多臓器にわたる全身性クリプトコックス症15-30 mg/kg,1日1回,内服.
  • 中枢神経症状を引き起こしている症例で,抗真菌薬の治療を開始しすると,破壊された菌体成分に対する免疫反応による炎症や脳圧の増加し,病態が悪化することがある.治療開始後数日間は,デキサメタゾンまたはプレドニゾロンの使用を勧める報告もある.
  • 予後が悪いのは,網膜炎や中枢神経症状が発現している場合である.臨床症状の消失や血清クリプトコックス抗原も陰性化しても最低2~4カ月は投薬を継続する.

予防

本症には有効なワクチンもなく,予防法は困難であるが,クリプトコックスに汚染されている地域の土壌やハトの糞に暴露することを避ける.猫の感染病巣からは多量の菌体が排出している場合があるため,罹患動物の取り扱いには十分注意する.

法律

感染症法:播種性クリプトコックス症(クリプトコックス属真菌による感染症のうち,本菌が髄液,血液などの無菌的臨床検体から検出された感染症又は脳脊髄液のクリプトコックス莢膜抗原が陽性となった症例) は五類感染症と指定されているため,医師は診断後7日以内に,管轄内の保健所へ届出義務がある.

人における本病の特徴

動物の場合と同様である.

症状

動物の場合と同様である.

診断と治療

診断法は,画像診断に加え,動物の場合と同様である.

アゾール系抗真菌薬による治療.

予防

人から人への感染は発生しないと考えられている.

法律

感染症法:播種性クリプトコックス症(Cryptococcus属真菌による感染症のうち,本菌が髄液,血液などの無菌的臨床検体から検出された感染症又は脳脊髄液のクリプトコックス莢膜抗原が陽性となった症例) は五類感染症と指定

(2025年3月制作)

このページのTOP