猫ひっかき病 ( Cat scratch disease ; CSD )

概要

猫の掻・咬傷,また,猫ノミ刺傷により,Bartonella henselaeB. clarridgeiaeが感染し受傷部近くの有痛性のリンパ節腫脹を呈する感染症である.

疫学

1990年代に米国でAIDS患者に発生した細菌性血管腫について,患者と猫からBartonella henselaeが分離されたのを契機により,猫ひっかき病の重要な病原体であることが知られるようになった.日本では1953年にすでに報告されていたが,近年,報告例が増加している.疫学的に若年齢者の発症例が多く,また,7〜12月にかけて多発する.これは猫ノミの繁殖期と呼応すると考えられている.

感染経路

主に猫の咬・掻傷,猫ノミ刺傷による経皮感染による.

保菌動物

飼育猫では7〜10数%が本菌を保有していると言われている.猫ノミを介して猫から猫への伝播が確認され,保菌犬,猫やノミから人が感染すると言われる.飼育猫の8.8%が抗体陽性で,若齢猫,ノミ寄生猫,室外飼育猫,温暖地域猫では高い陽性率である.

病原体

グラム陰性多形性短桿菌のB. henselae又はB. clarridgeiae

動物における本病の特徴

症状

ほとんど症状を示さず,長期間(数週間〜数ヶ月間)の菌血症を起こす.感染実験した猫では,発熱,一過性の神経機能障害,傾眠,食欲不振等を示した.

潜伏期

不明.

診断と治療

菌の分離,PCR法,間接蛍光抗体法.治療には,敗血症の場合にはドキシサイクリン,リンコマイシン,アモキシシリン等の抗生剤である程度抑制できるが,血液中からの完全な除菌はできない.

検査法と材料

遺伝子検出にはリンパ節を凍結で輸送する.抗体価測定の血清(0.5ml以上)は凍結して輸送する.

類症鑑別

パスツレラ皮膚感染症.

予防

飼育猫は野良猫との接触を避ける.抜爪,猫ノミの積極的駆除等.

法律

特に規制されていない.

人における本病の特徴

症状

定型例:3〜10日の潜伏期後,猫による受傷部位に発赤丘疹が見られ,その後水疱に,一部では膿疱や潰瘍に進展する場合もある.その後1〜2週間後にはリンパ節腫脹し,有痛性のリンパ節炎(受傷部により,鼠径部,腋窩,頸部リンパ節など)が数週間〜数ヶ月間持続する.多くの症例で,微熱存続,悪寒,頭痛,全身の倦怠感等の全身症状を示すが,一般に良性疾患で,自然治癒する.

非定型例:5〜10%の患者は重症型になり,パリノー症候群,脳炎,心内膜炎,肉芽腫性肝炎等が認められる.免疫不全患者や免疫力低下の高齢者では,細菌性血管腫や突然の痙攣発作や意識障害,脳症などの重い合併症を起こす場合もある.

診断と治療

とくに,子猫との接触歴や掻傷部の存在の有無,局所リンパ節の腫脹等を確認する.通常,2〜3週間で自然治癒する.各種の抗生剤の投与が行われているが,その効果は低い.

類症鑑別

パスツレラ症(表1参照).

検査方法・材料

感染初期の血液,感染の証明 (抗体価),遺伝子検出 (PCR法),血清(0.5ml以上)を凍結にて輸送する.

予防

猫に引っ掻かれないようにする.猫の爪切り,猫ノミの駆除.

法律

特に規制されていない.

(2024年3月更新)

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