細菌性赤痢(Bacillary dysentery,Shigellosis)

感染症法:三類感染症

概要

赤痢菌の経口感染により大腸粘膜細胞内に侵入・増殖して起こる下痢を典型的な症状とする急性出血性腸炎である.

疫学

近年の細菌性赤痢は輸入感染症として,主にアジア地域からの輸入例が半数以上を占めている.最近の届け出数は年間100〜300件程の発生数である.しかし,ここ数年,保育園,ホテル,福祉施設における集団事例がみられる.また,汚染された水や食品による散発的な集団発生がみられる.感染菌量は10〜100個.主な感染源が人であることから衛生水準の向上とともに減少する.海外では男性同性間性的接触MSM(Men who have sex with men)による細菌性赤痢が1970年代の中頃から報告されている。

感染経路

主な感染源はヒトで、患者や保菌者の糞便であり,それらに汚染された手指、食品、水、ハエ、調理器具を介して直接・間接的に感染する.ヒト−ヒト直接感染の他に,サル類からの感染も起こる.

保菌動物

赤痢菌はヒトおよびサル等の霊長類に感染するという宿主特異性がある.例外的に、本菌で汚染された水や食物を介してイヌが自然感染したことはあるが,ネコの報告はない.

病原体

腸内細菌科(Enterobacteriaceae)のシゲラ属(Shigella)に分類され,通性嫌気性,グラム陰性,非運動性の桿菌で,糖を分解して酸を発生するが,ガスは産生しない.

A群ディセンテリー菌は志賀赤痢菌と呼ばれ,志賀毒素を産生する.

ヒトの症例ではS. sonnei が60〜80%を占める。また、サルの症例報告状況ではS. flexnerが大多数を占める.

動物における本病の特徴

野生生息のサルから赤痢菌は分離されないが,人が飼育することによりサル類は感染する.旧世界ザルでの発症の報告が多く,新世界,原猿類での報告は少ない.なお、サルの発症報告例の多くは輸入日の検疫期間中に発見されたものである.

潜伏期

2〜9日.

症状

サルの臨床症状は人の症状と類似し,水様性、粘液性,粘血性の下痢を呈し,元気・食欲の消失をきたす.時に嘔吐を呈する.発症した個体は数日から2週間で死亡することが多い.また,無症状で赤痢菌を保有するサルも存在する.

診断と治療

臨床的には下痢所見を診る.糞便あるいは直腸スワブの培養には,マッコンキー寒天培地、DHL寒天,SS寒天培用いて,乳糖非分解を示す無色あるいはやや桃色を帯びた集落を釣菌し,確認培養を行う.赤痢菌の生化学性状に一致したら,血清型別を行い,菌型を決定する.主要病巣の大腸では,粘膜の肥厚・充血・出血,浮腫または糜爛が見られる.病原体の確認.

治療にはリファンピシン,クロラムフェニコール,アンピシリンを用いる.

類症鑑別

サルモネラ症,エルシニア症,アメーバ赤痢.

予防

ワクチンはない.感染が確認された個体の隔離・治療,飼育衣料,機材・器具,排泄物の消毒.媒介するハエなどの侵入・付着防止対策.飼育者の衛生教育などを行う.

輸入可能地域からのサル輸入に際しては、農林水産大臣が指定する施設における輸出前の係留検査や輸出国政府機関が発行する証明書が必要となる.

法律

感染症法の三類感染症に定められている.サルの本疾患は,感染症法で獣医師の届出義務対象となるため,診断した獣医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

人における本病の特徴

発生は世界的にみられ,衛生状態の悪い開発途上国に多い.先進国においては衛生環境の向上や抗生剤の普及により細菌性赤痢の脅威は少なくなってきている.日本では青年層を中心とした輸入感染症であるが,最近、小児の集団発生や食中毒型の発生がみられる.

潜伏期

通常1〜3日.排菌期間は4週間以内である.

症状

典型例では全身倦怠感,悪寒を伴う発熱,水様性下痢で発症する.その後,腹痛,しぶり腹,膿粘血便などの赤痢症状が出現する.発熱は1〜2日のことが多い.一般にS.sonneiによるものは軽症で,S. dysenteriaeS.flexneriによるものは典型的な症状を示すことが多い.排便後にすぐまた排便したくなるという症状(裏急後重)も特徴.小児や高齢者,糖尿病や肝硬変など基礎疾患を有する症例では重症化しやすい.

診断と治療

診断は,動物における本症の特徴の診断・治療の項を参照.

治療は、通常は支持療法で十分であるが,幼児および衰弱した高齢患者または重症患者には抗菌薬のフルオロキノロン系薬剤,アジスロマイシン,セフトリアキソンなどを投与する.強力な止瀉薬は赤痢菌を大腸に留めてしまうため、使用せず乳酸菌やビフィズス菌などの整腸剤を抗菌薬と併用する。

類症鑑別

カンピロバクター腸炎,非チフス性サルモネラ腸炎,腸管出血性大腸菌腸炎,コレラなどの細菌性腸炎やランブル鞭毛虫症(ジアルジア症),アメーバ赤痢などの原虫疾患との鑑別が必要である.

予防

ワクチンはない.ヒト−ヒト感染をするため,患者の隔離・治療を行う.便に排菌されるため,二次感染予防として手洗いと汚物や汚染環境の消毒などの衛生管理が重要である.海外での感染が多いので,特に発展途上国では,生水,魚介類などの飲食を避ける.サル取扱者はゴム手袋,マスクなどの感染防御対策を実施する.

法律

感染症法の三類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.食中毒が疑われた場合は,24時間以内に最寄りの保健所に届け出なければならない.

(池田 忠生)

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