Bウイルス病(B-virus disease)

感染症法:四類感染症

概要

ヒト単純ヘルペスウイルスに類似したBウイルスの感染による熱性,神経性疾患で,旧世界ザル由来の感染症である.1932年に外見上正常なアカゲザルに咬まれた急性進行性髄膜脳炎で死亡した米国の研究者(Dr.Brebner)が最初の例である.

疫学

Bウイルスは旧世界マカク属のサルの間に流行しているウイルスで,宿主に対して最低限の,あるいは検出できない程度の病的状態を引き起こす.自然感染は,アカゲザル,カニクイザルで報告され,ボンネットモンキー,ニホンザル,タイワンザル,ベニガオザル,ブタザルからもウイルスが分離されている.世界で50(職業と関連あり)例程が報告されている.わが国では2019年11月,鹿児島県内の実験用サル施設の2名の取扱者がB ウイルス病を発症した初事例が確認されている.

感染経路

サルでの伝播の多くは性行為を介した水平感染である.人では,サルによる咬傷,掻傷により感染する.また,サルの唾液,粘液と人粘膜のとの接触により感染した報告がある.

伝搬動物

マカク属サルはすべてBウイルスを排出しているという認識で取り扱うことが肝要である.

病原体

Bウイルス(Macacine alphaherpesvirus 1 [旧Cercopithecine herpesvirus 1(CHV-1)])はヒトの単純ヘルペスウイルスと同じαヘルペスウイルスに分類される.一般にSimian Herpes B virus(SHBV)と呼ばれる.

動物における本病の特徴

マカク属以外の旧世界ザルや新世界ザルには,自然環境下ではBウイルス保有は知られていない.マカク属以外のスタモンキ−,クロシロコロブス,キャプチン,コモンマーモセット,ドウブラッザグエノンでは致命的な疾患を引き起こす.未成熟個体では感染の流行は少ないが,成熟するにつれ急速に広がり,成体では80〜90%に広がる.

症状

マカク属サルでは,多くは不顕性感染か,口腔内に水疱や潰瘍を生じる程度であるが,潜伏感染しているためストレスなどで再発症する.発症時には口腔粘膜の上皮細胞で増殖し,唾液の中に放出される.軽い口唇潰瘍の症状がある.ときに重症になることもある.

潜伏期

初感染後,終生潜伏感染する.

診断と治療

臨床症状,病原体の確認(PCR法),抗体価の上昇を確認.治療にはアシクロビル(感染後数分以内に注射すれば感染を防ぐ),ガンシクロビルが有効.

類症鑑別

PCR法とRFLP法により,遺伝子診断でHSV-1とBウイルスを鑑別する.

検査法と材料

ウイルスの分離.ELISA法,ウエスタンブロット法や間接免疫蛍光法により血清抗体を測定する.

予防

ワクチンはない.サル及び生体材料を取り扱う場合は,フェースガードやゴム手袋を着用した防護対策をする.

法律

感染症法の4類感染症に定められているが,動物における届出義務はない

人における本病の特徴

受傷部位でのヘルペス潰瘍,発熱と全身の倦怠感,末梢神経の感覚異常を伴う,急性の上向性脳脊髄炎を示す疾患である

潜伏期

咬傷後早い場合は2日.通常,2週から5週以内に症状が現れる.

症状

Ⅰ期
咬傷部位の水疱または潰瘍.咬傷部位の激しい痛みとかゆみ.領域リンパ節の腫脹.
Ⅱ期
発熱.咬傷部位とその周辺の無感覚,知覚異常その他の神経麻痺.咬傷部側体肢の筋肉衰弱また は麻痺.結膜炎等.
Ⅲ期
副鼻腔炎.項部硬直.長期間の頭痛,悪心,嘔吐.交差性知覚障害,複視,脳神経麻痺.意識障 害,呼吸障害,脳炎,昏睡.

診断と治療

アシクロビル(感染後数分以内に注射すれば感染を防ぐ),ガンシクロビルが有効.

予防

ワクチンはない.サルを取り扱う場合は,フェースガードやゴム手袋を着用した防護対策をする.

法律

感染症法の4類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

(池田 忠生)

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