鳥インフルエンザ(Avian Influenza)

感染症法:二類感染症(H5N1,H7N9), 四類感染症(H5N1,H7N9を除く.) 家伝法:家畜伝染病(HPAI,LPAI), 届出伝染病(AI)

概要

鳥類のA型インフルエンザウイルス感染症を鳥インフルエンザといい,家畜伝染病予防法(家伝法)では,国際獣疫事務局(WOAH; World Organisation for Animal Health,法的名称の略称; OIE)の診断基準に準じてA型インフルエンザウイルスの感染による鶏,あひる,うずら,きじ,だちょう,ほろほろ鳥及び七面鳥(以下「家きん」という.) の疾病を高病原性鳥インフルエンザ(HPAI),低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)及び鳥インフルエンザ(AI)の3種類に区分して防疫措置を行うこととしている(図1図2).

なお,高(低)病原性とは,鶏に対する病原性が高(低)いことを意味するものであり,必ずしも人や哺乳動物に対するものではない.

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疫学

A型インフルエンザウイルスは,人を含む哺乳動物と鳥類に広く分布する.水鳥類(特にカモ類)が自然宿主であり,腸管内にウイルスを保有している.通常,水鳥類に対して病原性はなく,ウイルス遺伝子も安定している.カモ類等の渡りにより広くウイルスが運ばれ,ウイルスを含む排泄物から直接又は間接的に感染する.家きん集団の中で感染が繰り返される中で家きんに対する病原性を獲得し,HPAIとなると考えられている.

2024年3月,乳牛の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の感染事例がアメリカにおいて報告された(2024年12月20日現在,16州866農場).野鳥から乳牛への感染事例から,主に搾乳作業を介して他の牛へ感染が広がったと考えられている.農場間での感染拡大は作業者,牛の運搬車等により伝搬した可能性が,州境を超える広域での感染拡大は乳牛の個体移動によるものと考えられている.

また,犬及び猫でのA型インフルエンザウイルス感染例も海外では報告されている.

感染経路

感染した鳥類(野鳥や家きん)又は本病ウイルスに汚染された排泄物,飼料,粉塵,水,衛生害虫,人,飼養管理器材又は車両等との接触により感染する.

病原体

オルソミクソウイルス科に属するA型インフルエンザウイルス(Influenza A virus).

インフルエンザウイルスの血清型

血清型HA亜型NA亜型宿主病原性
A型H1〜H18N1〜N11鳥類, 人, 豚,馬, ミンク, アザラシ, クジラ等有り
B型--人, (ゼニガタアザラシ)有り
C型--ほとんど無し
D型--有り(低)

水鳥類からは,ほとんどの亜型(H1〜H16,N1〜N11)のA型インフルエンザウイルスが分離される.
これまでに報告されているHPAIは,全てH5又はH7亜型のウイルスである.(注:H17 H18 及び N10,N11 はコウモリ由来ウイルス)

動物における本病の特徴

症状

鳥の種類,ウイルス株,環境因子等によって症状は多様で,不顕性感染から前駆症状なく急死するものまである.主な臨床症状は,突然の死亡(死亡率の急増),神経症状(沈鬱,嗜眠,振せん),呼吸器症状(咳,流涙),顔面,肉冠,肉垂若しくは脚部の浮腫,チアノーゼ若しくは皮下出血,産卵率低下,産卵停止,下痢,飼料摂取量及び飲水量の低下若しくは消失,元気消失及び羽毛逆立(図3).

米国における牛の臨床所見は,食欲低下,泌乳量減少等,重症例では粘稠な乳の排出等,牛の症状は比較的軽く10日程度で回復する.感染牛は乳汁中にウイルスを排泄する.肉用牛での本病は確認されていない.

ネコ科動物はH5N1亜型ウイルスに感染しやすく,特に猫では食欲不振,無気力,発熱,症状が進行すると神経症状,沈鬱,鼻汁,呼吸器症状を示す.

図

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潜伏期

鶏では1~2日,高病原性のウイルス感染の場合は感染2~5日後に急死する.

診断

  1. 肺,気管及びクロアカスワブ等を検査材料にウイルス分離.家きんの確定診断は,農研機構動物衛生研究部門において分離ウイルスの血清型別及び同定を行う.
  2. PCR検査.
  3. 抗体検査:寒天ゲル内沈降反応,赤血球凝集抑制反応.
  4. 迅速抗原検出キット(簡易検査キット,検査材料:気管スワブ又はクロアカスワブ).

類症鑑別

ニューカッスル病,伝染性喉頭気管炎,伝染性気管支炎,鶏大腸菌症等.

治療

家きんの治療は行わない.家伝法に基づく「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」による発生群の殺処分,家きん舎や汚染物品の消毒,周辺地域の家きんの移動制限等の防疫措置を行い清浄化が図られる.

愛玩鳥や展示鳥類等の場合も,まん延防止のため自主的な淘汰を指導する.

予防

家きん舎への野鳥侵入防止,衛生害虫の駆除,消毒等の衛生管理の徹底等の飼養衛生管理基準の励行が基本となる.我が国ではワクチンの使用は認められていない.

検査材料

死亡鳥をビニール袋等に密封,保冷して家畜保健衛生所へ輸送.

法律

家きんのHPAI及びLPAIは家伝法の家畜伝染病に指定されている.本病の疑いがある家きんを診断又は検案した獣医師は,直ちに家畜保健衛生所に届け出る.愛玩鳥や展示鳥類等の場合も家畜保健衛生所へ通報し,その指示に従うことが望ましい.

また,感染症法により,鳥類をH5N1及びH7N9亜型A型インフルエンザウイルス感染症と診断又は疑いがあると診断(検案)した獣医師は,保健所への届出も義務付けられている.

参考資料

学校飼育の家きん等への対応(PDF).

人における本病の特徴

鳥インフルエンザウイルスは,通常,容易には人へ感染しないが,一部のウイルス株(H5N1,H7N9亜型)では,近年,海外では人への複数の感染例が報告されており,養鶏関係者,獣医師等,感染家きんに濃厚接触(飛沫感染,体液・排泄物への接触)する機会がある者は,防護服の着用等,感染防御に留意する必要がある.

臨床症状

発熱(38℃以上),咳,呼吸困難,喀痰,下痢,咽頭痛,鼻汁,筋肉痛,嘔吐,頭痛,全身の倦怠感など通常のインフルエンザ様症状や結膜炎がみられる. 重症例では急性呼吸不全を合併する.死因は呼吸不全のほか腎不全,心不全,多臓器不全が多い.

米国における感染牛から人へのHPAI感染事例では(2024年4月1日以降,感染した牛と接触した37名), いずれも軽症(多くは結膜炎を伴う.一部,咳などの上気道症状.)で回復済み又は回復中と報告されている.ウイルス解析の結果,人への感染性を上昇させる遺伝子変異はこれまでに確認されておらず,米国疾病予防管理センター(CDC)は,一般市民に対する感染リスクは低いままであるとの見解を示している.

潜伏期

2~8日.

予防

発生農場等の飼養者や従業員及びその家族等にインフルエンザ様症状のある者の有無を確認し,ある場合には直ちに医療機関への受診と保健所へ相談するよう指導する.

病鳥に接触する場合は,ゴム手袋,マスク(N95規格),ゴーグル等の保護具を着用する.必要に応じリン酸オセルタミビルを予防的に内服する.インフルエンザワクチンの接種(鳥インフルエンザの予防効果はないが,ヒトインフルエンザウイルスとの混合感染によるウイルス遺伝子交雑を最低限に抑え,新型インフルエンザ発生の可能性を最小限にするのが目的である.).

法律

感染症法: 二類感染症(H5N1,H7N9), 四類感染症(H5N1,H7N9以外).

それぞれの報告基準に従い最寄りの保健所に届出(医師)が必要.

(2025年3月更新)

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